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昭和の漫画を読む~森脇真末味「Blue Moon」

森脇真末味「おんなのこ物語」「緑茶夢」と昭和のバンドまんがに浸った後つづいては「Blue Moon」へ。
2周読んでみて・・・双子ストーリー数あれど、ここまでその設定を生かし切って、せつなく美しく深く胸に迫る作品はないのでは・・・と感じました。
まずは初読感想を書き散らしたツイッターより~

電子書籍にて森脇真末味Blue Moonチビチビ読んでる。これはたぶん初読。バンド漫画ではない。
じゃあ何漫画か?となると、うーん…双子もの?詐欺とか恐喝とか出てくるアウトロー的な世界。主人公2人は成長した無戸籍児で~て文字にすると重い。

根底にはどろどろヒリヒリしたものがあるんだけど、森脇先生が描くと…ファンタジー的不可思議さとかおしゃれさとかモヤモヤとかせつなさとか、読後感になんとも言えない後味が残る。

双子の英一と英二、顔のつくりも髪型も同じなのに表情や言動でほぼ見分けがついて混乱なく読み進められる。漫画でこれができるって実は相当凄いんじゃないかと。結構多くの漫画家さん、キャラの描き分けを髪型の違いに頼ってること多いからww

5巻中3巻まで読了~
主人公の双子(英一英二)得たいが知れない状態から、お話が進むにすれじわじわ性格や関係性がわかって来くる感じ。
性格悪いけど妙に色気があって魅力的な英一。
英二は素直で単純で人なつっこい。
英一、強そうに見えて寂しげで脆いとこあって、女子がほっとけない気持ちわかる。

17歳の男兄弟にしては異常になかよし。
英二はお兄ちゃん大好きで英一に依存してる。英一は愛憎相半ばするけど命がけで弟を守ろうとして…でも徐々に、英二は英二なりに必死に英一のこと守ってるんだな…とわかってきた
毎回読んだ後、せつない気持ちと消化できないざらっとしたものが残る。これはきっと最後まで続くんだろうけど…2人の行く先を見届けたい。

八角も弘(緑茶夢)も英一英二もみんな17歳前後。子供と大人のはざまでもがいてる姿を森脇先生は描きたいんだと思う。あと親の保護を受けてない、も全員共通か。

「月の家」の章よんだ・・・しんどかったぁ
心がヒリヒリズキズキ痛んでせつなくて苦しい。でもいちばん苦しいところは超えたのかな…
英一英二ふたりとも、ぎゅうっと抱きしめたいよ。こんなにふたりのことが愛おしくなるなんて思ってなかったよ。

Blue Moon読了~
とりあえずバッドエンドでなくて良かった…1回読んでみて、再び最初に戻って読み直したい。いろんなセリフや表情がまた違った意味を帯びてきそうな気がする。


かなり特異な漫画である。登場人物だいたいアウトロー、あるいは一般人だけどヤバい奴(むしろ一般人の方が本当にヤバい…)で、家出中の17歳双子・英一英二が町から町へさまよいながら行く先々で事件を引き起こしたり巻き込まれたり。その中で幼い頃からのトラウマや葛藤が交錯する人間ドラマとなっている。

前2作のバンドまんがは泥臭い昭和の香りをぷんぷん漂わせ、おそらく作者が実際に見たり体感した世界がリアルに投影されている感じだが・・・「Blue Moon」は「おんなのこ物語」から3年ほどしか経っていないものの大きく作風が変化。この間に「おんなのこ物語」で脇役として登場した金子を主人公とした短編群があり、その中で変化していったようだ。

森脇作品では定番の脇役→主役昇格はここでも見られ、金子を主人公とした短編「TIME」で英一英二が登場している。


「Blue Moon」に登場するのはどれも日本のどこかにある普通の町のようなんだけど、どこか違った空気感が混在している。
香港の裏町みたいな猥雑さだったり、廃屋寸前の古びたアパート、重々しい洋館、人里離れた山奥の別荘・・・

「おんなのこ物語」でギターの作画など画力の高さに感動したものの、背景はふつうに「漫画の背景」だった。
それが「Blue Moon」では、単なる背景ではなく、もっとお洒落でデザイン性の高いアートに進化した感じ。それが独自の空気感を生み出しているのだと思う。

ほとんど漫画読んでない時期があってから最近復帰したので・・・
「Blue Moon」では何度も見開きページにハッとする瞬間があって、これが漫画の醍醐味!と実感する。1ページ1ページのコマの大小・配置の妙から~ここぞ、という場面での見開きバーーーン!!で息をのむ。ダイナミックな変化。それを遺憾なく味わわせてくれる画力とセンス。
電子書籍でもノートPCサイズなら紙に近い感覚が味わえる。私はスマホでは読めないな・・・



少女漫画としてはかなり特殊な作品。
主人公(特に英一)、やってることだけ見ればゲスでクズなチンピラ。行く先々で女の子引っかけるし、肉体関係持つし、扱いが雑。顔はきれいだけどパジャマのズボンのゴムのとこボリボリ掻いてたり・・・少女漫画の理想化された美少年とはかけ離れている。

でもやっぱり、昭和の少女漫画特有の美しさと透明感がそこここに香り立つ。最近の少女漫画読んでないので比較できないけど…
終盤、久しぶりに会った英一と英二が子供みたいにじゃれあってるシーン・・・「ポーの一族」(萩尾望都)でエドガーとアランがバラの中で戯れてるシーン思い出した。
どちらも、「少女漫画の中の少年たち」だからこそ成立する印象的な美しい場面。


(以下ネタバレ含む)


一卵性双生児として同じ遺伝子を持つ英一と英二。
英一は母の記憶から消され精神的に遺棄された。英二は母に認知され愛されたが「英一」と呼ばれ続ける。そんな2人が寄り添いあって成長し…17歳という子供と大人のはざまに。

2人の性格がよくわかる場面・・・
素直で屈託のない英二はさらりと、(行方不明の)父親に会いたいと言う。
父に複雑な思いを持ちつづける英一はそれを聞いてイラ立ち、英二に意地悪な言葉を投げつける。

英二の健康的なおおらかさに英一は嫉妬と羨望を覚えずにはいられない。そもそも弟の存在そのものが英一の心を傷つけ苦しめる。それでも離れることができない。
弟は、英一に無垢な愛情を惜しみなく与えてくれる唯一の存在だから。そして英一もまた英二を誰より深く愛しているから。

自分は何でも英二より優れている、英二は何もできない弟・・・というのが英一の唯一のよりどころで・・・英二は無意識にそれを理解して、同い年なのに兄に頼り切っている。そうやって英一の心を守っている。

物語の終盤、英一が英二に「おまえは何でもできるよ 英二・・」と語りかける場面は何度見ても泣ける。いつも意地悪で冷たいまなざしの英一があまりに優しい目をしていて。


当然、物語の核となるのは2人の母親。自分の心の平安を守るために息子を切り捨てた女。
正直読んでいてその言動に「こ、このおんな~」と、怒りと冷たい恐怖が湧き上がってくる。少女のようにあどけなく見える怪物。
彼女を狂わせたのが2人の父親・英明。この人がまたサイコパス的な・・・自由で冷酷で美しく魅惑的な怪物で・・・

その父親に似ていると言われる英一。
でも英一英二の恩人の青木は言う。
「ぼくにもあの子の父親にも できなかったことが英一にはできたからね
愛すること 信じること 許すこと
ぼくたちは三つともできなかった!おかげで傷つかずにすんだけど」

英一は愛したがゆえに深く傷ついて苦しんで・・・けれど、そのぶん他人の痛みや苦しみに敏感で、やさしく寄り添うことができる。心が健康な英二はそういうとこ鈍感で理解できない。

英二はほんとシンプルにかわいい。悩んでも落ち込んでもお腹がすいちゃう自分に自己嫌悪感じながらもバクバクごはん食べる英二かわいい。
英一がモンスターにならなかったのは、どんなに意地悪されても変わらず注がれた英二の無邪気な愛情のおかげだと思う。

青木も謎めいた魅力のある…実は相当ヤバい人物で興味深い。けど、ここに踏み込むと果てしがなくなるので・・・
登場する女の子たちも、感情的だけどパワフルで魅力的。けど、そこに踏み込むと果てしがなくなるので・・・



17歳の英一英二は、同じ服着て黙ってすましてれば見分けがつかないほど似ている。
でもきっと、10年後の2人は「ほんとに双子かな?」と思うくらい顔だちも雰囲気も何もかも、変わっているのではないだろうか。

彼らのことを大好きになってしまったから、どうかしあわせに・・・せめて他人のことも自分自身もあまり傷つけずに生きていて欲しい・・・と願ってやまないのです。


前に書いた「おんなのこ物語」感想はこちら↓
https://note.com/tenmomo/n/ndeb8df3eb9f9

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