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ひとりじゃない。

「ひとというのは最初こそ貰う側やけんど、いずれは与える側にならないかん。いつまでも貰ってばかりじゃいかんのよ。親になれば、尚のこと。」

https://www.nhk.or.jp/radio/magazine/article/my-asa/uh-3gMV3H2.html

ステップファミリーの中の歪みを的確に描写した小説です。離婚後の子どもの気持ち。そして親の歪みによって生じる心的身体的暴力のことを思わずにはいられません。子どもを幸せにしたいのならば、その前に家族の中の歪みを取り払わなければならない。父親としていま何をすべきなのか…それは子ども以上に家族としての母親を労ることだと思わずにはいられませんでした。

読後感はとても温かい気持ちになります。一方で気になったのは、最初の魂のつがいとの別れのために「アナと雪の女王」のハンス王子よろしく専務をここまで悪者に描く必要があったのかー。キナコは自分が歪んだ幸せを望んだ結果、専務を豹変させてしまったことを嘆きますが、本書に描かれる男はトコトン悪者です。裏を返せば、まさに家庭問題の元凶は男によって召喚されているということなのかもしれません。

読む最中、妻方の祖母が暮らす大分県日出町の情景がずっと思い起こされていました。4月に何度かいった北九州のことも。

支援され続けるだけでは辛い。いつかは支援をされる側にまわりたい。被支援者が支援者にまわることの大切さ。虐待や不倫、負の連鎖は続きがちのなかてまどのように楔はうてるのか?強い意志だけで抗えず文殊の知恵=仲間が必要で孤立状況が続く限り無くならないことも大変示唆的です。

虐待をはじめとする子どもの問題をノンフィクションばかりで読んでいたので、小説として、しかもこんなに温かい読後感を残してくれて読める話を書いてくれた著者を心から尊敬します。読んでよかったと思える、多くの人に届いて欲しいと素直に思える一冊です。

(町田その子「52ヘルツのクジラたち」2020年)

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