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オブラート1枚目「物持ちがいいね」
「その鞄、いつから使ってるの?」
「これ?何年前からだろう。多分、10年以上。会社の人にも、物持ち良いねって褒められたよ」
彼がケロッとした顔で言う。
「そうなんだ。でも、このあたりとか結構傷んでるから、そろそろ新調してもいいんじゃないかな」
「まぁ、まだ使えるし。今ほとんど在宅だしな」
「物持ちが良い」
実は私がよく言われることだ。主に、文房具。
今使用しているボールペンはコンビニでも購入できる200円もしない物だけれど、実は芯だけを交換しながら同じ物を10年以上使用している。
先日、といっても半年以上前、12年使用していたシャープペンを紛失してしまい、未だに新しい物は購入していない。
製図用の4桁する物ではあるけれど、同じ物は大型の文具店に行けば必ず手に入る。しかしそれではだめなのだ。
長年使用して染みついたフィット感は、同じ形の物でもあれ1本にしか出せない。
なので今は鉛筆を使用している。
また、本に関してもそうだ。好きな作品はずっと手元に置いておきたいと思う。
その上での手入れの手間は惜しまない。
本棚の掃除をする時なんかは棚板を拭くだけでなく、マスキングテープを使って本の表面の埃を取っている。
「物持ちがいい」というのは、「大事に使っている」ということを言うのではないだろうか。
彼の鞄は革であり、革製品というものは元々長く使えるものとして人気が高い。
しかし素材というものは長く使用すればするほどダメージを受ける。
プラチナの指輪であっても、ずっとつけていれば表面に数多の傷を纏う。
革製品なんてのはより繊細だろう。
何も手入れをしていない状態で、10年以上使用して「物持ちが良い」におさまる訳がないのだ。
摩擦で傷ついた革の面が毛羽ついて、もはやその部分においては本当に革だったのかも疑わしい見た目をしているその鞄は、正直電車で知らないおじさんが持っていてもみっともないと思ってしまうレベルだ。
そもそも「まだ使える」で使用を引き延ばすのはただの「貧乏性」に過ぎないのではないだろうか。
「物持ちが良い」というのは「これがいいから」丁寧に扱って長く使用できる人間をいうのだ。
彼よ、お前は違う。
いや、私もいけない。
私もオブラートに包んで言ってしまった。
素直に「みっともな!」と言ってやれば、多少気分は害してしまうけれどもおとなしく買い替える検討をしてくれたのかもしれない。
彼の職場の人が包んでくれたオブラートを、私が剥がしてやれなかったのだ。
親しき仲にも、オブラート。
時としてそれは自分へのダメージになってしまうのだ。
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