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お姉さんと番傘

昨日のこと。

東京へ打合せに行った。

最後は旧知の同僚と品川で会った。

それも束の間、帰路についた。

新幹線の車内はとんと人けがない。

聖堂や禅堂と変わらない。静謐だ。

今日のあれやこれやを指折り数えていたら、薬指を曲げたところでコキッと大きな音をたててしまった。

それが車内に響いた。

通路を隔てた窓際のお姉さんがゆるりとこっちを向く。

日本髪を結った和服姿。二枚刃の下駄を履き脇に番傘を携えていた。

花柄のマスクは邪魔だけど粋なお姿だ。

男なら静かに昂ぶる。

熱海駅で同じく降りると、指折り5本数えてお姉さんの後ろを歩いた。

改札を出ると大粒の雨がジャバジャバ降っていた。

お姉さんはそんなことにも動ぜず、しなやかに番傘を差すと、人けのない淡く暗い坂を下った。

その後ろ姿と雨の温泉街。ちょいとできすぎの絵柄。

ぼくは車内に傘を忘れ濡れて坂を上った。

忘れた傘にとんと未練はないが、花柄のマスクに未練が残った。

OSABOW

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