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25円のタバコから


大きなリュックにプレステだけを詰めて、端っこの校舎の裏の階段に座り、喫煙所の煙を身にまといながら、空(くう)をみていたでかい後輩。
タバコを1本もらって、一緒に吸わせてもらった。ハイライトのメンソールだった。

「俺最近、ダメなんすよね」
と言ったので、
「そっか、自律神経かね。」
と返した。

最近あった共通の友達の話をすると、大きな口で笑ってくれた。タバコのお返しのつもりで買ったじゃがりこを、半ば無理やり食べさせて、別れた。分かれ道、私は横断歩道を渡った先へ、後輩は渡らず左へ曲がるのに
「信号変わるまで待ちます。」
と、赤から青に変わるのを一緒に見ててくれた。


またね、と別れた後、図書館で演劇の脚本を書いていたら、2月以来会っていなかった大好きな友達から電話が来た。
「ごめん図書館だ!どうした!」
とLINEで文字を送ると
「今ちょうど図書館出たところ」
続けて
「もしいたら一本どうかなと思って」
ときた。

慣れないキャンパスでよく分からないところに停めてしまった自転車を一緒に取りに行ってくれて、別の駐輪場に一緒に停めて、やっぱり端っこの校舎の裏の喫煙所へ行った。金マルを1本くれた。
就職活動の様子を教えてくれた。
私は彼の、静かな旅のような性格が好きなんだけど、就職活動でさえ、彼のは旅みたいに自由だった。
お返しに珈琲を奢って、外のベンチで座って飲んだ。隣のベンチで空回りしている男の子の声が耳障りで、でも夕方の肌寒さが気持ちよかった。


彼と、サークルの集まりに顔を出した。
新入生たちの自己紹介のなか、私たち4年生は、就活のおかげで半年ぶりに集まったため、興奮していた。
最近、陰嚢捻転で入院していたその友達は、私の大好きな友達の中の1人だ。どう考えても再会が嬉しくて、はしゃいだ。陰嚢捻転のことも、味がしなくなるまでみんなでいじって、笑った。

「一本行かね?」
「ごめん煙草持ってないんだよね。」
「あげるから。」
「ありがとう。」

やりとりをして、また同じ、端っこの校舎の裏の喫煙所に行った。ハイライトのメンソール。残りは6本なのに、1本くれた。
渋谷のクラブで週5で働く彼は、陰嚢の手術の後遺症のせいで、後ろの方からクラブを見守るポジションを任されたらしい。仄白いセットアップに黒マスクは、指定された服装だそうだ。
彼は弱い人だと、私は思う。以前、強いお酒を飲みながら、「誰かを喜ばせることが何よりも好きだ。」と私に話してくれた夜が、私の大好きな夜の中のひとつである。あの時の彼の目と、私のワクワクを、昨日のことのように思い出す。
最近できた彼女は、何人もいる元カノとまた同じ系統の顔だった。しっかりと待ち受け画面にしていた。

私たち同期にとって、唯一の、そしていじられ役の先輩は、服が着れなくなるくらいムキムキになって登場した。最近電車で、誰も隣に座ってくれないとぼやいてた。変な人だな、と思った。


大好きな人たちが、変わらず日々を暮らしている。どうしても愛しくて、全員の全てがうまくいきますようになんて浅いことを、私はかなり本気で祈った。
そして、そんな人たちと出会える私自身の暮らしが愛しくて、とても愛しくて、訥々と大事にしていたいと思った。

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