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彼の話-2

彼は仕事を探している。仕事はしなくてはいけない。これは人間として当然のルールのように思う。
なぜそう思っているのかは彼自身よく分かっていない。でも、彼は人の役に立ちたい。感謝されたいのである。
なぜ、彼はそう考えるようになったのだろう。間違いなく四国に行ったことは関係しているだろう。

彼は四国でお遍路をしていて驚いた。現地の人が優しいのだ。まず、彼は高知でおばあさんから刺身をごちそうになった。
そのおばあさんは彼をみるなり「お遍路さん、お腹減ってるでしょう。なにかたべましょう。」と、いってくれたのだ。そして、近所のスーパーへ行き「好きなものを買って!」と、仰ったのだ。
彼は驚いた。何が起こっているのだろう。自分はなにもしてないのになんでなのだろう。そう思った。
しかし、彼は刺身が食べたくて仕方なかった。彼にとってお遍路中の昼御飯はカロリーメイトだった。安くて歩きながら食べられるからだ。そして、夕飯はだいたい揚げ物だった。惣菜は揚げ物の方が安いからだ。高知に来たんだしかつおが食べたくてしょうがなかった。おばあさんに甘えた。そして、話をしながらおばあさんの家に向かった。どうやら、おばあさんは他のお遍路にもこのようなことをされているようだ。すごいと思った。そして彼は話を聞いているうちにおばあさんは孤独だからその気持ちを和らげたくてこのようなことをしているのかもな。と、考えた。これならつじつまが会うと思ったのだ。
おばあさんの家についたとき、おばあさんの旦那さんが迎えてくれた。全く検討外れだった。旦那さんもなにごともなく彼を受け入れてくれた。そして、その旦那さんは楽しそうに自分の趣味を話してくれた。旦那さんの趣味はカメラとオーディオと飛行機だった。飛行機はフォルムは好きだが怖くて乗れないそうだ。
そして、刺身定食をご馳走して貰った。味噌汁や煮物もつけてくれた。
本当に旨かった。彼が四国で食べたもので一番旨かった。そして、彼が貧乏四国旅行をしている話をしたら旦那さんとおばあさんはお金をくれたのだ。なんてこった。どうしてなのだろうと聞いてみた。
そしたらおばあさんはこう答えた。「自分達も高知に住んでるんだし歩いてお遍路をしてみたいと思っていた。でも、年を取ってできそうにない。なのでその分も回って欲しい」と、おっしゃった。彼はそのお金を受け取った。感謝しかない。感謝以上の表現があるならばその言葉を送りたい。彼の語彙力では思い付かなかった。

そして、彼は今、この件を振り替えって思うのだ。自分もこのおばあさんのようになりたい。感謝される人間に。

彼はこれからどのような人間になるのだろう。それは僕もわからない。

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