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彼の話-5

彼は今日受けていた会社からお祈りメールを頂いた。こんなんなんぼあってもいいですからね。と心の中のミルクボーイが言っていた。いや、無いほうがいいだろう。

彼は落ちた理由について考えていた。まずはその会社についての情報をしっかり持っていなかった。どんな仕事をするのか把握していなかったのである。条件と職種だけで選んでしまった。彼はそういうのをおろそかにする癖がある。彼の悪いところである。

次回に向けて彼は職種以外に受ける会社の仕事内容にも目を向けようと考えた。職種だけでは自分に合っている仕事なのかを絞り切れていないように感じる。例えば同じ営業でもルート営業と新規開拓では求められる営業スキルが違う。ルート営業で求められる営業力はお客様の欲しているものを上手く聞き出したりするコミュニケーション能力が必要であり、新規開拓営業で必要な能力は相手に対してグイグイ話すコミュニケーション能力であるように彼は思っている。そこあたりは会社を調べてみないと分からない気がしていた。

他にはZOOMでの面接に対応できていなかった。初めてZOOM面接を行った。どう振舞うのが正解なのか分からなかった。

しかし、彼はまだそんなに落ち込んではいなかった。理由は簡単である。一回しかまだ落ちていないからだ。これは回数が増えれば増えるほど落ち込む。ただ、彼は自分の可能性をまだ信じていた。もっと自分のことを知ろうと考えた。そして、自分の軸を作りたいと思った。

また、最近彼は初恋の人の夢を見る。初恋の彼女と楽しそうに話している夢だ。その夢から覚めると彼は切なくなる。初恋の彼女がこの前結婚式を挙げていたことをインスタグラムで知った。うっすらと懐かしく思いのほか悲しかった。こういう時、無性に山崎まさよしのワンモアタイムワンモアチャンスを聞きたくなる。春だからだろうか。彼はセンチな自分に酔いしれたい気持ちだったのだ。

そのセンチな勢いのまま彼は二時間近く歩いた。無職なので時間だけはある。その帰り、金もないのに本屋でエッセイを7000円ほど買ってしまった。彼はエッセイが好きである。その人の人生観に触れられるからだ。彼はオードリー若林さんのエッセイ『ナナメの夕暮れ』が好きだ。若者からおじさんになるまでの変遷が伝わってくる。こういうう風に自分もおじさんになっていくんだろうなぁと彼は思った。

彼は今日、就活に失敗したがまだいけると信じた。出来るやつなのだと言い聞かせた。カラ元気でもいい。彼が彼自身を信じないと誰が信じてあげられるのか。自分をけなす行為は自分のことを信じてくれている両親や恋人に悪い行為であることを学んだ。

彼がこれからどうなるのかは僕にも分からない。

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