新しい言葉で語るために

最近、コンピュータ関連の文章でも何十年か前の論文や本を読むことが多く、「振り返る」ということについて思うことがあります。

下書きをなにげなく見ていたら、そういえばこの記事書き途中のまま放置していたなと、読んでみると途中まではまあ読めるけど、そのあとはもう書く気がわかない。このまま公開して供養することにします。南無阿弥陀仏。


2018年のIT25・50シンポジウムでのアラン・ケイの基調講演を2年ぶりに見直した。前回みたのはこの講演が行われた当日で、慶應義塾大学の講堂にこれを聞きに行った。ぼくにとってアラン・ケイはアイドルみたいなもので、ファンならとうぜん聞きにいくでしょ!みたいなノリで聞きに行った。

冒頭からアラン・ケイが発言しているが、ちょうど50年前のこの日に、ダグラス・エンゲルバートによる伝説的なプレゼンテーションが行われた。

内容については見てもらえるとよいのですが、ぼくはどうしても聞きながら妙にイライラするのだった。この講演で、アラン・ケイは「私たちの思考能力は弱い」と指摘する。また、エンゲルバートの言葉を借りながら、コンピュータの危険について「これを扱うには教育が必要であり、気軽に使わせてはならない」と言いつつ、iPhoneを見せる。ぼくがイライラした理由は当時はよくわからず、憤懣やるかたない気持ちをどこかにぶつけていたが、今見なおしてみると理由は明らかで、ぼくらは彼にバカにされているのだ。「あなたたちは何も成長していないのにこんな道具を使ってしまっている」というメッセージを受け取ったとしても誤解とは言えないだろう。「そんなこと知るか!ぼくらがこんな情報端末を持っているのはぼくらのせいじゃないだろう!」とたぶん無意識に怒りを持ってしまった。

2年以上経って再び見直してみると、まず上記のような自分の心の動きが理解できた。だがそれ以上に、彼がぼくたちをこうやって腐す理由もわかった。彼は「今日はみなさんにエンゲルバートの "Augmenting Human Intellect: A Conceptual Framework" という論考を読んでほしい、それだけ伝われば良い」という。講演の内容は本当にそれだけなのだ。エンゲルバートの偉大な発明について褒め称える必要はない、われわれはエンゲルバートのやりたかったことをやり直さなければならない。彼のプロジェクトはアラン・ケイのDynabookプロジェクトと同じく未完のまま残されている。だからまずは「彼は何をやりたかったのか」を君たちには理解してほしい、そこから「彼がやり残したこと」について考えてほしい。そんなことがこの講演の内容なのだ。

この講演がなにによって行われているか見てみよう。講演は(去年からお世話になった人も多いであろう)Zoomで行われている。50年前のエンゲルバートのデモでは、ミーティング参加者がオンラインにおいても同じドキュメントを共有してみんなで編集できた。それは「自分の手がこの共有システムのなかに延長しているかのようだった」と評価しつつ、いま利用しているこのZoomでは50年も経っているのにこんなことさえできない、と指摘する。ぼくたちがいま「見ている」ということ自体が、不能の経験そのものなのだ。

われわれはバックミラーごしに現在を見ている。われわれは未来にむかって後ろ向きに行進している。郊外の住民は、想像のうえでは、西部劇の地に住んでいるのである。
--マーシャル・マクルーハン

Zoomを使って講演を聞くとはどういう経験だろうか。壇上の一人を除いて、みんな座ってだまって人の話を聞く。映画と違わないではないか。教壇と違わないではないか。それは新しいメディアによる経験であるどころか、新しいメディアに古いメディアの役割を押し付けている。ぼくたちはバックミラーを見ていること自体に気づかない。

だからこそ、マクルーハンはメディアを理解しようとした。ぼくたちが今見ているものがバックミラーに映った映像だと理解することが、メディアを理解する第一歩なのだ。


ここまでが下書きだったのですが、続きは自分でもよくわかりません。たぶん一年くらい放置されていたので…。自分で書いておいてあれですが、タイトルには興味があります。

「新しい言葉で語る」ためには、どうしたって古い言葉を振り返ってみることが必要だとおもいます。文中に書いたように、わたしたちが「新しい」とおもって見ているものは、常にバックミラーに映っているからです。ほんとうのところ、自分たちが「新しい」とおもって見ているものはなにひとつ新しくなんてなく、気付かぬところに真の新しさがあるものだとおもいます。そうして、それに気付かないのは、まさにわたしたちが古い言葉に囚われているからなのだと思います。だからこそ、「振り返る」ことには意味がある。

そんなことをいいながら、いまだにアラン・ケイのインストラクションをこなしていないので、時間をみつけてダグラス・エンゲルバートの論文を読もう…。

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