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SusHi Tech Tokyo 2024訪問 報告書

SusHi Tech Tokyo 2024は、「持続可能な新しい価値を生み出す」ことを目的とした、東京都主催のイベントで、2024年4月27日から5月26日まで東京都内の複数の会場で開催されている。その中で、5月15-16日に東京ビッグサイトで開催されたGlobal Startup Programを、大学生インターンの川上智央と共に視察してきた。

本プログラムの目的は、「東京から世界へ、スタートアップとともにオープンイノベーションを育む」ということで、会場内には国内外から集まった企業やスタートアップの商品やサービスのブースが所狭しと並んでいた。また、2日間に渡り、スタートアップに関する多種多様なセミナーが行われていた。その中で私たちが参加したセミナーの内容を以下に報告する。


セミナー報告

SusHiの真髄

公式紹介文
過去数十年のイノベーションはシリコンバレーを中心とした中央集権的なモデルに集約されているが、AI時代、特にAI Agentの時代にその構図はどうなるのか。連続起業家・孫泰蔵の独自の視点を共有し、SusHi Techへの提言を行う。

報告
講演の内容は詳細が説明された記事が出ているので、こちらを参照ください。

今回のイベントの中で、最もおもしろい!と感じたセミナーだった。前半は鮨の話に終始していたので、この話はどこに行くのだろうと思っていたところ、鮨の「シャリ」と「ネタ」というフォーマットを使って、最新のAI開発の状況が分析される流れになった。その中で、domain specific LLM/RAG(ドメイン特化型LLM及びRAG)を使ったサービスがこれからたくさん出現するだろうという見解が示された。

AIが暮らしの様々な場面に入ってきている現代、AIをどう事業に取り入れるかを考える起業家や事業者も多くいると思うが、専門家でもないのでどこから考えたらいいのだろうと思う人は少なくないのではないかと思う。そのような状況で、どのようにローカルナレッジのクラスターを作っていくかという考え方は、思考の起点になり得るもので大きな示唆になった。

もう一つ、起業家の本質的な仕事は、「良き問いを立てる」ことだという視点と、そのための場づくりの話があった。TENJO KANAZAWAという起業支援の場を運営していく中で、「良き問いを立てる」議論をどのように作っていくかということは、これから深く考えていくべきテーマだと感じた。

サステナビリティファイナンスの変革へ向けて:ESG・SDGsの未来と気候ファイナンス

公式紹介文
気候変動への懸念が高まる中、ますます多くの政策立案者やビジネスリーダーが気候変動の課題に焦点を当て、ESGやSDGsなどの持続可能な経営コンセプトを重要な転換点に置いています。この中で、日本企業は脱炭素化で主導的な役割を果たすために、非常に野心的な目標を設定しています。2023年の世界持続可能な開発報告書は、「変革の出現段階」である一連の目標を達成するために、持続可能な資金が必要とされると指摘しています。
このセッションでは、国連やCop28に参画してきた国際的なリーダーたちが、脱炭素化や気候対策におけるマクロ政策の方向性と、成長する金融およびビジネスの機会について、議論します。当セッションには、上記国連報告書の作成にも参画した、SDGs研究の第一人者としても著名な慶應義塾大学の蟹江 憲史教授と、国際的なオルタナティブ投資会社であるインベストコープの気候ソリューション事業の責任者であるジェームズ・ソカス氏が参加して、サステイナブルシティに向けた企業・起業家・投資家・政策立案者に、インプリケーションを提供します。モデレーターは数々のベストセラー著者としても知られる、京都大学大学院経営管理学研究科のESG投資専門家(PHD候補生)であり、ミネルバ大学日本支部の理事も務めるムーギーキム氏が担当します。

報告
ESGとは、E(Environment = 環境)、S(Social = 社会)、G(Governance = ガバナンス)の頭文字を取った言葉。元々は1920年代にその概念が生まれたESG投資は、1990年代から環境問題への意識が高まり、2006年に国連責任投資原則が提唱されてから、特に欧米では注目されるようになった。日本では、ESG投資を促す外的要因が希薄だったこともあり、消極的だった。

近年、欧米でもESGという概念への注目度には翳りが出ているが、その中で環境問題への危機感は強まっており、最近ではESGという言葉よりもSustainabilityという言葉で語られることが多くなっている。特に気候変動に関しての欧米の危機感はとても高く、その分野に巨大な投資が投じられている。

ジェームズ・ソカス氏のコメントは印象的だった。30年前と今の世界で最も大きな企業10社を比べてみてほしい。今と違って、IT関連の企業は30年前ほとんど存在感がなかった。30年後は、気候テックの会社がいくつも出てきていることだろう。今の投資のお金の流れをみているとそのように感じさせる。

「サステイナビリティ」に関しての意識、それはエシカル思考というようなものを超え、強い危機感からダイナミックに行動を起こす動きが本格化していることを実感できたセミナーだった。

ヘルシンキ市・ナイロビ市リバースピッチ 〜海外都市課題解決実証〜

公式紹介文
東京都は都市の共通課題の解決とネクストユニコーン輩出を目的に、本年度より都内スタートアップの海外都市の課題解決に向けた実証実験を支援します。本年度はヘルシンキ市とナイロビ市が実証舞台です。
ヘルシンキ市は環境負荷低減等が期待されるソリューションを、ナイロビ市は早期の洪水発生周知等に係るソリューションを求めています。両市のリバースピッチに加え、ヘルシンキ発スタートアップのピッチ等を予定しています。

報告
東京都と提携して、課題解決に向けた実証実験の場となるヘルシンキ市とナイロビ市がそれぞれのスタートアップをめぐる状況を発表していた。私はプレゼンを拝聴したヘルシンキ市チームからは3名が登壇した。

北欧は、シリコンバレーに次ぐユニコーンファクトリーとして名声を得ている。北欧のベンチャーキャピタルエコシステムは、他と比べて高いリターンと低い投資の失敗率を誇る。これは、協力的なエコシステム、政府の支援、強力な教育システムの基盤の存在によるものだ。フィンランドもかつてはノキアに代表されるように大企業が経済を牽引していたが、衰退と共に危機感を感じてスタートアップに力を注ぐようになっていった。

スタートアップ市場が拡大した背景には、SLUSHという世界最大のスタートアップイベントをこの地で育ててきたという背景もある。それに関しては、創業メンバーのPeter Vesterbacka氏の講演も聞いたので、その内容を以下に記すこととする。

2023年、ヘルシンキで上位を占める投資分野は以下の通りだ。
・電動モビリティ: 73.8Mドル
・グリーンビルディング: 44Mドル
・宇宙テック: 36Mドル
・持続可能な海洋資源: 34.1Mドル
・循環型経済: 27.5Mドル

ヘルシンキは2030年までにカーボンニュートラル、2040年にはカーボンネガティブを達成することを目標として掲げている。投資分野もその目標を明確に反映しており、クリーンイノベーションや、低炭素建材などには特に力を入れている。

ヘルシンキと金沢は、寒冷で降雪もある気候や、都市の規模感など類似する点もある。北陸で上記の分野の技術開発を進めるスタートアップなどは、ヘルシンキで実証実験をして欧州市場を狙うという流れも作りやすいのではないかと考える。

「不可能などない」:起業による世界変革を担う新星をエンパワメントする

公式紹介文
世界的人気ゲーム「Angry Birds」で知られるロビオ社の前CMOで、フィンランド発・世界最大級の学生主導スタートアップイベント「Slush」の創業メンバーの一人でもあるPeter Vesterbacka氏が、若者のグローバルアントレプレナーシップ推進について、自身のこれまでの経験を踏まえながら持論を展開する。

報告
Peter Vesterbacka氏が、世界最大のスタートアップイベントであるSLUSHがどのように始まり、どのように発展したかを語ったこのセミナー。その話は、1939年にシリコンバレーでHP社が創業者のガレージから始めた有名なエピソードから始まり、スタートアップは「若者こそ未来だ」ということを体現していると感じたことがSLUSHを始めるきっかけになったと語った。

2006年、フィンランドの大学で600人の学生たちに向かって講演した際、「この中で会社を創業しようと考えている人たちはいるか?」と聞いたそうだ。その時、YESと答えたのはたったの3名だったという。

この状況に危機感を感じたVesterbacka氏は、翌年の2007年、仲間たちとSLUSHを立ち上げた。ヘルシンキでどのようにスタートアップのイベントを作るかということを話し合っていた時、多くがシリコンバレーを模倣することを想像していることに気がついた。ヘルシンキは人口も多くなければ、開催する11月は寒くて暗く、シリコンバレーとは大違いだ。同じことをやってはダメで、自分たちでやり方を探すことが大切だと周りに説いたという。

SLUSHは毎年成長していき、昨年は投資家3000人とスタートアップ創業者ら5000人を含む13,000人が来場した。17年でこれだけ成長した秘訣はただ一つだとVesterbacka氏はいう。それは、企画から運営まで若者たちに任せ切ったということだと。大人たちは、若者たちが働ける環境だけを準備し、資金の使い方なども含めて全て若者たちが指揮をとって運営する伝統が、ここまでこのイベントを大きくさせたのだという。

「日本ではなかなかそうはいかない」そういう日本人は多いだろう、とVesterbacka氏は聴取に語る。でもヘルシンキだって大変だったし、他の都市で同様のことをしてもやはり簡単ではない。「若者こそ未来だ」ということをどれだけ信じられるかが大切なのだと熱く語っていた。

2024年の炭素除去の状況:新興リスクとアーリーリワード

公式紹介文
陸・海・空気を活用するソリューションにより、以前よりも炭素を除去する方法がさらに多くなってきている。それに伴い、百万ドル規模のバイヤーも増えているが、何がうまく機能し、何が経済的に手頃なのか。変化していく測定・報告及び検証方法の中で需要を刺激しながら供給を確保し、コストと時間の観点からソリューションの展開をどのように進めていくのか。本セッションでは、フロンティア・三菱商事及びカーボンダイレクトのリーダーたちと共に現在の炭素除去の状況について議論する。

報告
サステイナビリティ分野で様々なテクノロジーが実装され始めている中の一つが炭素除去である。その先進的なプロジェクトの一つが、三菱重工エンジニアリングとエクソンモービル社が共同で進めるCCS (Carbon dioxide Capture and STorage) プロジェクトだ。本プロジェクトの炭素回収のコア技術は、液体アミンを用いた「KM CDR Process」という技術で、すでに商用において年間100万トン以上の実績を有する。
炭素除去の技術は、上記の技術だけではなく、多くの方法が研究されている。ただどれもまだ実用に向けては時間がかかるものが多い。James Burbridge氏はその状況を野球に例え、「まだ2回表くらいのイメージだ」と話していた。ただし、上記のプロジェクトに見られるように、空気中から炭素を回収して地中に埋めるという試みは夢物語ではなく、すでに実装フェーズに入っている。

まだまだ小さなマーケットであるが、今後様々な産業でこのような技術が開発、実装されていくだろう。例えば、自動車産業を考えてみれば想像がつくように、今後この領域の産業が確立されていくプロセスで、大きなサプライチェーンが生まれていくことが予想される。炭素除去技術のコアは大資本の企業体が先導することは明白だが、そこに生まれる大きな産業構造を想像することで、スタートアップが大きく成長できることもあるのかもしれない。

日本はアジアのWeb3ハブとなり得るのか?

公式紹介文
本セッションでは、日本がアジアのWeb3ハブとしての地位を確立するための可能性について議論する。特に、日本のクリプト規制改革がどのように進展しているか、そしてこれが地域競争にどのように影響するかを深掘っていき、さらにはシンガポールや韓国をはじめとする隣国との比較を通じて、日本の立ち位置を明らかにしていく。また、上場投資信託(ETF)、実物資産へのトークン化(RWA)、大企業によるWeb3技術の採用など、現在のWeb3トレンドに関する最新の動向についても議論し、日本がWeb3領域でリーダーシップを発揮するための課題と機会について、業界専門家の見解を交えて展開する。

報告
セミナーは、「Web3とは何か?」という質問から始まった。渡辺創太氏は、Web1が読むだけ、Web2はそれに加えて書いて発信できるようになり、Web3はそこにオーナーシップを持つことが可能になったと説明した。また、ブロックチェーン技術を通して、デジタルボディーを作り、それを通してお金などを送り合えることになったことは、所有の概念を塗り替えたとも話した。

ビットコインが誕生して15年。Web3の世界には中心的なリーダーがおらず、必ずしも先進国だけでなく、世界各地で様々なプロジェクトが分散型で発展しており、マーケットは確実に成長している。近年はウォール・ストリートの金融界も積極的に参入しており、経済の主流に乗りつつあると言える。現状、Web3に関わる人口は、まだ世界人口の3%程度だが、5年で15%程度、2040年には50-60%が使うようになると予想されている。

一方で、Web3の難しさは、前述したように所有の概念を変えることになるため、そのための法整備も同時進行で進めていることにもある。しかも、各国で考え方に違いがあり、統一したルールがないため、Web3が発展しやすい場所とそうでない場所が混じり合った状況にある。その中で、日本は必ずしも法規制がゆるいわけではないが、できることとできないことのガイドラインを明確にすることには成功しているという。

渡辺創太氏は、Web3は日本にとっても大きなチャンスだという。IT産業では、日本は世界の競争に負けてきているが、今まだ黎明期だからこそ、日本の企業も世界にでてチャレンジすればビッグプレイヤーになれる可能性がある。

グローバルから日本へ:日本で雇用・事業展開・ビジネスのローカライズ化に挑むインターナショナル創業者の学び

公式紹介文
日本は言語や文化において、世界と比較しても非常に特色のある国である。それはビジネスにおいても同じことが言える。本セッションでは、日本でビジネス展開するインターナショナル創業者のJeff Fu氏とAnna Kreshchenko氏をお迎えし、日本での雇用・事業展開・ローカライズ化における苦悩と挑戦、そして日本のポテンシャルについて、お二人の経験を交えながら議論していく。

報告
ウクライナ出身のAnna Kreshchenko氏は、元々京都大学に留学するのが目的で来日した。ただ、大学生活自体をそこまで楽しめず、学生をしながら起業した。一方、Jeff Fu氏は台湾で起業してから、日本にパートナーを探しにやってきた。

言語や文化の違いはやはりある。特にJeff Fu氏は日本語を話さないので、細かいことを全て理解することはできない。そのため、強いチームを作ることが不可欠だと感じているという。日本での採用は、日本人のスタッフに全てを委ねることで、今はうまくいっている。

Anna Kreshchenko氏にとっても、文化的に理解できないことがたくさんあったという。例えば、大企業は時間がかかるし、どのようなルートで話をすればいいのか、目に見えないルールを学ぶ必要が多々あった。言語はもちろん必要だが、流暢であることがとても大切とは思わなくなったという。それよりも、積極的にコミュニケーションをとる意欲があることの方が大事だと感じているとのこと。

Anna Kreshchenko氏にとって、日本での資金調達のプロセスは最も大変だったという。日本語もそこまでうまく話せず、ネットワークもなく、交渉の作法もわからなかったので難航した。Jeff Fu氏も、日本の金融機関や企業は決断をくだすまでに長い時間がかかることに馴染めなかった。

一方で、二人とも外国人だからこそ優遇されるとか、やりやすいと感じる部分もあったという。日本の言語や文化を理解することは大切だが、ネイティブになれるわけではないので、外国人というポジションを使うしたたかさも持ち合わせるのがいいと感じている。

日本のものづくりスタートアップ:過去10年と未来の展望

公式紹介文
本セッションでは、日本のものづくりスタートアップの過去10年を振り返り、今後10年の展望を探っていく。ベンチャーキャピタル、起業家、支援者の視点から、達成されたこと、直面している課題、そして未来に向けた戦略について議論する。各スピーカーが提供する独自の視点を通じて、革新的なアイデアと解決策を探求し、ものづくりスタートアップが日本のエコシステムにおいてどのように進化していくかを考察する。

報告
セミナーの冒頭、小林氏からここ10年でものづくりはどのように変化してきているかについての考察が語られた。ものづくりの分野でもスタートアップは増えているし、投資も増えている。政府も政策的に後押ししている。それでも、成功しているところはとても少ない。研究開発や知財という観点では日本は強いが、事業化の部分に苦労している。これは大企業も例外ではないという。

ものづくりの分野のスタートアップはまだまだプレーヤーが少ない。増やしていくためには、以下のようなプロセスが有効ではないかという提言があった。
・最初のゼロイチは思いを持った起業家が立ち上げる
・小回りのある中小企業が間に入る
・事業化の部分は大企業と連携

例えばホンダは「ホンダIGNITION」というプログラムをやっていて、ストリーモというプロダクトはここから排出された。また行政に目を向けると、墨田区がやっているガレージ墨田というラボはそのようなスタートアップ排出をサポートするプログラムをやっている。このような場で協業の機会を作っていくのが効果的だと考えられる。

ものづくりのスタートアップを経験した野村氏は、大企業と違って、それをできる人がいないと感じている。もしかしたらいるのかもしれないが、なかなか見つけることができない、と。資金調達もとにかく自分で探し回ったが、断られ続けたという。最終的にようやく出資をしてくれる大企業に出会うことができた。

近年、大企業のCVCなども増えてきたが、ものづくりのスタートアップはそもそも体力のある中小企業は少なく、開発にも時間がかかるので、製品を世に出すところまでいくのはまだまだ大変だ。国内だけで完結するのは容易ではないので、日本のものづくりネットワークを海外に開放していうことが大切である。


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