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名前で運勢が変わるか?(8):100万人を姓名判断した占い師

姓名判断の実証』(増村治良著)によると、12万6千件の人名データを姓名判断的に調べたところ、東大合格者、有名企業の社長・会長、芸術家、芸能人やスポーツ家などの地格数、外格数、総格数に偏りがあった、とのことでした。

そして、字画数の取り方に混乱があるなど、信頼性には疑問が残りますが、今後の追試結果いかんでは、字画数を用いた姓名判断の実効性が証明されるかもしれない●●●●●●、ということでした。

●生き残るのは、どの流派か?

ただ、この著者の分析結果が追試などで実証された場合、占い業界に大混乱が起こる恐れがあります。必然的に、姓名判断で商売する占い師の大多数が誤っていたことも証明されるからです。

なぜなら、この著者の方法では1字姓や1字名に「1」を足しませんが、このような占い師は全体のほぼ半数です。ということは、残り半数の「1」を足す占い師は、今まで間違った占い方をしていたことになります。

この段階で、占い師の約50%が失業するか、方針転換を迫られることになります。[注1]

また、3字姓や3字名の外格数の取り方も特殊です。たとえば、2字姓3字名の「河原絵里子」さんの場合、大多数の占い師が外格を「=18」とするところを、この著者は「=11」としています。

これは外格を用いる占い師の中では少数派です。しかも、「河」を9画(康熙派)ではなく、8画(旧字派)としています。この段階で、さらに20~30%の占い師が脱落するでしょう。[注1]

そのうえ、吉凶判断の総合評価では、地格、外格、総格を使用しながら、人格(河原絵里子さんの場合、1012=22をいう)を用いていません。

これは人格を重視していないためと考えられますが、運勢判断で人格を重視しない占い師は、平成以降では珍しいと言って良いでしょう。この段階までくると、従来の占い方を見直さなくてよい占い師は、ほとんど残っていないはずです。

果たして『姓名判断の実証』が正しく、世の中の占い師は大半が間違っていたと証明されるのでしょうか。なんだかワクワク、ドキドキしてきますね。

●実証性が確認できないその他の研究

ここで樹門幸宰氏の『姓名の暗号』にも触れておく必要があるでしょう。なにしろ30万件の人名データを調査したそうですから、数字の上では『姓名判断の実証』を凌駕りょうがしています。『姓名判断の実証』を取り上げるなら、『姓名の暗号』はどうなのだ、というご意見もあるに違いありません。[*]

しかし、樹門氏のファンの方には悪いのですが、それはできないんです。『姓名の暗号』には具体的な調査手順が書かれていません。だからといって、氏の主張を否定するものではありませんが、調査手順の説明がないとなると、これを実証的な分析結果とするわけにはいかないのです。

というのは、著者のことばだけに頼ろうとすると、信頼性が著しく損なわれてしまうからです。実は、途方も無い主張をする占い師が他にいるため、そうした明らかな誇張を排除するためにも、調査手順の確認は不可欠なのです。

●「100万人の姓名と運命を調べた」と豪語する占い師

たとえば、ある占い師は約百万人の人名データを調査したというのです。この人は1968年刊の自著の中で、独自に作成した漢字の画数表について、つぎのように書いています。[注2]

私が過去数十年間にわたって約百万人に達する人々の姓名と現実の運命とを検討し、精密なデータを作成した上で、これこそ最も妥当であるとの確信をもったやり方で画数を算定したものでございます・・・

仮にこの作業が40年かかったとしましょう。すると1年間に2万5千人、1日に68.5人、1時間に2.85人、1人分にかける時間はせいぜい20分でしかありません。こんなわずかな時間では、とても「姓名と現実の運命とを検討し、精密なデータを作成」するのは無理でしょう。

出版時期から逆算した調査期間は1930~60年代となりますが、その当時は現代のパソコンも無かったし、恐ろしく手間のかかる作業だったはずです。約20分のほとんどは、運命を検討する以前の、こうした煩雑な準備作業に費やされたでしょう。

しかも、この約20分には睡眠や食事、トイレの時間を計算に入れていません。40年間も不眠、不休、断食し、トイレも我慢して、ひたすら人名データと格闘していたとは考えにくいので、正味の検討時間はさらに短くなります。

「数十年間に約百万人」というのは、どう考えてもあり得ない数字です。この著者の主張を疑っているわけではありませんが、物理的には不可能です。

==========<参考文献>==========
[*] 『姓名の暗号』(樹門幸宰著、幻冬舎、2005年)

==========<注記>=========
[注1] 本項で参照した当ブログの記事
Q:一字姓や一字名に1を足すのはなぜ?
Q:「さんずい」や「てへん」が4画なのはなぜ?
Q:新字体と旧字体の流派があるのはなぜ?
ニ字姓と歴史の皮肉(1): ニ字姓ニ字名は姓名の標準型か?
漢字の画数問題(1):旧字派と康煕派

[注2] 「100万人の姓名と運命を調べた」と豪語する占い師
 この著者を個人攻撃する意図はないので、ここでは書名、著者名を記すことはしない。どうしても確認しないと気が済まない人は、1968年刊を手がかりに、ご自身で探し当ててください。なお、私が目を通した姓名判断書の中には、同様の主張をする占い師が、ほかにも数名いたと記憶している。

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