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「吉本荒野」は生まれ変わる 『家族ゲーム』より

 11月20月のお昼過ぎ。今回から『家族ゲーム』の再放送がはじまった。
主演は嵐の櫻井翔(以下、櫻井くん)。沼井家と契約を結ぶ謎のスーパー家庭教師・吉本荒野を演じる。
 沼井家は、両親と二人の兄弟をもつ4人家族。長男・慎一役は神木隆之介が演じ、この頃から「爽やかな好青年だが、闇を抱えた裏の顔がある」という二面性をもったキャラクターが定着している。
 ところで、櫻井くんが主演する今回の『家族ゲーム』。PVがなかなかにインパクトがあって怖い。黒背景をバックに、吉本の二面性が16秒のなかでありありと映し出されている。
(櫻井くんも二面性キャラが多い気がする) 

 『家族ゲーム』は元々、本間洋平の小説を原作としており、映画・テレビドラマを合わせて過去に4度も映像化されている。また、その度にあらすじ、シナリオ、キャラクター設定、結末などが大きく変更されている場合がある。

大まかな共通点としては、

・落ちこぼれの次男・茂之が、家族の悩みの種であること
・6人目の家庭教師である吉本の常軌を逸した指導方法
・次男とは対照的に、優等生を演じる長男・慎一
・欠陥だらけの家族関係

などが挙げられる。

 一方、原作小説や、松田優作が主演を演じた映画版、長渕剛が主演のドラマ版では、吉本の暴力的な指導すら厭わないという面が強調されている。
 しかし、櫻井くんが主演の2013年版からは、吉本の暴力性が削除され、かわりに掴み所のない、計算高く、ミステリアスな雰囲気をもつ人物へと変更された。
(物を壊したりはするが、生徒へ頻繁に手をあげるといったような描写はない)

 確かにこれは、2000年以降の時代にあわせた必然的な変更だっただろう。
  この頃から、DV、体罰、パワハラなどの身体的・精神的な暴力行為がひときわ問題視され、世間では急速な撲滅運動が実施されていた。
 つまり吉本の暴力的指導はすでに時代錯誤であり、同時代の視聴者にメッセージを伝える説得力として機能しないどころか、むしろ障壁になる可能性が高かった。

  とくにテレビドラマのような、不特定多数の目に入る媒体では、同時代にあわせた変更が不可欠だ。『家族ゲーム』や『GTO』など、リメイクされる頻度が高い作品では、そうした変化が如実に見てとれるだろう。
  『相棒』や『科捜研の女』のように、シーズンという形で続きながらも、同時代にあわせて変化しているようなドラマもある。特に『相棒』は、脚本に時事ネタを入れるスピードがものすごく早いことでも有名だ。

 それに対して、原作の良さがもてはやされることもあるだろう。その意見はもっともだ。古典の作品や、漫画の実写映画化など、原作と別媒体との優劣を争う議論は、永遠に続くテーマなのかもしれない。
 しかし、テーマメッセージ性のある作品では、それらを適切に伝えることが第一目標だ。原作主義を貫くあまり、「今何を伝えるか」がおざなりになってしまっては本末転倒だ。それならば、多少の変化もそれなりに歓迎するべきだろう。

 櫻井くん主演のテーマは「崩壊と再生」。人間関係・家族関係が希薄になった現代社会を、一見何の不自由も無い"ように見える"沼井家を舞台に描きだしている。
 問題を抱えているのは、落ちこぼれで引きこもりの次男・茂之だけではない。家庭に無関心な父、世間体を気にしすぎる母、優等生を演じる反動で性格が歪んだ長男など、どれも現代社会で当てはまるような問題ばかりだ。

 型破りな吉本が仕掛ける「ゲーム」によって、沼田家の、そして現代社会の深い闇が、次々と白日の下にさらされることとなる。


※ひとこと
 
書いていて思い出したのだが、斎藤美奈子さんの『文庫解説ワンダーランド 』(岩波新書)でも、似たような内容があった。
  確か、夏目漱石の『坊ちゃん』を扱った章だったと思うが、いずれ図書館で探して確認してみよう。


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