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未来 2024.5月号より


近づくほどに遠ざかりゆく心地して(それも陳腐か)東下りぬ

高さへと先細りゆく構造のおそろしく見ゆ塔の真下に

テーブルの下に隠れしたまゆらに目と目は合いてそれきりの朝

ネクタイの結び目に見ゆほの暗き原理主義的ダンディズムはも

壇上に立てばわれへと注がるる視線の冷ややかなる気配して

封筒より壱萬円を置いてゆき去りし黒瀬珂瀾うつくし

顔と名の一致せぬ人やさしかり宴のやがて閉じてゆくとき

人たらしという誉め言葉浮かびくる誰のことともつかないけれど

敗走のごとき帰路にて思いおり「書きたし」というまぶしき声を

詩に遠く及ばぬものを見つめおり冬の夢へと入りゆくときに
 

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