未来 2023.11月号より
七月の窓は大きく開かれてヴィシソワーズの冷ゆるのを待つ
嫉妬深き顔をしている立葵の花の高さを過ぐるときにも
FSKはフィギュアスタンドキーホルダーの略らしくそのさやけき響き
たまゆらを天使が通りたるのちに騒立つ初夏の教室あわれ
屋上で待っているわと耳打ちの夢より覚めて雨の土曜日
歯科助手の声に呼ばれてわたくしの名は仄暗きところより顕つ
アンドロイドの臓器のごとく静もりてウォーターサーバー水を湛えつ
『まだらの紐』読みて挿し絵のおそろしき一夜はありき夏の彼方に
雨ほそく降り続く夜くちなしの匂いの沁むるまでを 眠らな
トム・クルーズ老ゆるも不死なる七月の夜はさびしも火星のごとく
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