未来 2023.10月号より
頭痛持ちふたりは眠る紫陽花の色うつりゆく雨のあわいを
雷薄くひねもす雨の図書館にカフカを返すひと借りるひと
夜すがらの雨の上がりに蜘蛛の巣は鋼の色にしずくしており
雨垂れの音を受けつつ心とは壺のかたちに鎮もるものを
わたしには靡かぬひとを誘いおり雨後さやかなる夕の珈琲店へ
光らねば蛍と言えず妹を置き去りにした紺碧の森
銀縁の眼鏡をはずす愛すとは強く自動詞だと思いつつ
橋の上と鏡の中は同じだと思う月夜の橋を渡りて
キリコの絵に少女の顔は見えざるをその絵のごとく眠れぬ夜は
紫陽花だと思っていたら戦争だった 脳を侵す夢の、それとも
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