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佐藤優樹という人

佐藤優樹に煽られている幾たびも見返す夏の野外フェスにて

 2021年12月13日、佐藤優樹がモーニング娘。'21を卒業した。卒業コンサートとなった日本武道館公演は,、台湾及び香港を含めた全国137か所でライブビューイングが実施された。当日、僕も映画館にて彼女の雄姿を見届けた。あちこちでサイリウムを振る観客のなかで落涙を許しながら。
 30歳を過ぎてアイドルにハマるとは思ってもみなかった。そんな本音を今も抱えつつ、アイドルという枠では決して語りきれない唯一無二の存在、表現者としての佐藤優樹に、僕は魅了されている。
 
 佐藤優樹に僕が出逢ったのは、ライブ会場でもテレビ番組でもYoutubeでもなく、ラジオだった。明石家さんまがパーソナリティを務めるMBSラジオ、ヤングタウン土曜日。長年、リスナーである「ヤンタン」は、明石家さんま、村上ショージをメインパーソナリティに、モーニング娘。の現役メンバーをアシスタントとし、そこに各週1人のゲストを迎えて放送されている。
 そのゲストとして佐藤が初登場した回が、文字通り衝撃だった。歯に衣着せぬ物言い、どころかほとんど放送事故だったと思う。放送後はリスナーのこちらの方がどっと疲れているという始末。その後、(本人の希望に反し)佐藤はゲスト出演を重ねるのだが、いずれの回も大御所さんまを相手に先の見えないトークで翻弄し、およそアイドルらしからぬ「ガハハハ」という笑い声で強烈な印象を残した。
 そんなアクの強い彼女のキャラクターが、いわゆるテレビやバラエティ的な「キャラ」ではなく、全くの素の表情だと知ったあたりから、佐藤優樹という人物に興味が湧いてきた。
 
 ヤンタンのゲスト出演で佐藤を知った僕にとって、ステージ上での彼女の姿は異次元だった。Youtubeで偶然たどり着いた、ロック・イン・ジャパン・フェスティバル2019での野外ライブパフォーマンス。佐藤卒業後の今にして思えば、初めて目にしたこのステージが、佐藤優樹史上最高のパフォーマンスの一つだったのかもしれない。
 
 生歌のクオリティとフォーメーションダンスで高く評価される現在のモーニング娘。。6万人の大観衆を前に、彼女たちはアイドルとして、アーティストとして躍動していた。そして、アイドルグループという概念を覆すような圧倒的パフォーマンスのなかでも、ひときわ異彩を放っていたのが佐藤優樹だった。
 個々のメンバーの名前や顔が一致しない当時、PC画面越しにも、明らかに佐藤は他のメンバーとは一線を画していた。一人だけサウンドエフェクトがかけられているのかと感じた独特の声質に、繊細かつ大胆に刻一刻と変化し続ける動きや表情のニュアンス。センターにおらずとも自然と目が奪われてしまう、それが佐藤だった。
 そして、そこから過去のライブ映像や様々な動画を遡って後追いするうちに、もれなく僕も佐藤優樹という、一度ハマったら決して抜け出せない底なし沼に落ちてしまったのだった。
 
 佐藤優樹の魅力とは何か。圧倒的なライブパフォーマンス、舞台上とその他で同一人物とは思えないほどのギャップ、強烈な笑い声、ステージでの横回転、決して脚本では書けないような迷言の数々…。彼女を知って2年足らずの僕などが挙げるまでもない。どのように言葉で表そうが、実際にその目で見なければ魂に突き刺さることはない。その上で、あえて一言で表すなら、彼女の最大の魅力とは、その〈予想のつかなさ〉なのだと思う。
 ステージ上で、あるいはバラエティの場で、次に何をしてくるのかわからない期待感(と、ときに不安感)。予定調和などなく、常にこちらの想像を超えてくる姿に、一瞬たりとも目を離せないでいる。そんな風に感じさせられるのは、後にも先にも彼女だけだろう。
 
 そして、2021年12月13日、佐藤優樹はモーニング娘。'21を卒業した。過敏性腸症候群という予期せぬ病による長期活動休止を経ての、彼女の決断だった。本来ならば、まさにこれからが絶頂期と予想されていた22歳での卒業は、正直、ファンにとってはあまりに大きな喪失である。誰が言い出したのか、「押しは推せるときに推せ」という格言がある。その言葉を今は噛み締めている。
 
 映画館のスクリーン越しに見届けた日本武道館公演は、従来の卒業セレモニーはなく、彼女の希望通り「いつものモーニング娘。のコンサートとして終えたい」というセットリストであった。
 ラストのソロ曲を歌い終え、「またいつか会える日までね!バーイ!」と言い切って、彼女は舞台を後にした。その言葉通り、いつの日か今度はソロとして佐藤優樹が戻ってくる日を、心待ちにしたい。

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