未来 2023.9月号より
樹下しずか五月の幹をふとらせてゆくごとき風のなかのフルート
風来坊いずかたへ去るさみどりの風の夕を燕は来たり
聖歌隊にまぶしかりける少年の内より隆起せし喉仏
花の名の少女ふたりと通いたる道ありき風蒼き皐月に
躑躅の蜜を道すがら吸いたりし日のわれならなくに心病むのは
鯉のぼりの鯉だらしなく垂れている緑のなかに血は絶ゆらしも
風いちまいめくれる午を青葉から青葉へわたることばと思う
いただきもののジャム艶めきてひと匙を三日月のおもてに塗りつ
フーコーの振り子はゆきて戻りつつ円を落としぬ惑星のおもてに
風死すと少女は言えり夕映えのトランペットの黄金深し
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