涙と光

 今日も涼しい夜風が頬を撫でる。何人が、空にある光を見て泣きそうになる感覚をわかってくれるだろう。それは星でも月でもビルの灯りでも鉄塔のランプでも良い。見上げた先にある光は誰しもを現実に帰ってこさせる。遊園地の帰りに見る月に寂しさを覚えるのはそのためだと思う。
 小さい頃、泣かなくなったら大人になれるんだと思っていた。だから泣き虫をやめようとしていた。それが全くの間違いだとは思わないけど、正しいわけではないと今は思う。
 泣くことは自分に感情があって、人間として生きていることの証だ。生きるものはみんな死ぬように、時間が経てばお腹が空くように、人間はみんな涙を流す。泣けなくなったら、それは人間じゃない。泣けない人は怖い。素敵な映画を見たり、辛い目に遭ったり、優しい言葉に出会ったりしたとき、自然に泣けてしまう方が健やかに生きている感じがする。
 こんな事をメモに書き起こしながら、一昨日は満月を見つけていた。できるだけ綺麗な写真を撮って、月を見て思い出した人に送った。その人は珍しい曇り女で、外に出て曇っている空に困って、同じ月を見たかったと言ってくれた。それを見て笑いながら、自転車を漕いでいる僕に吹く、少し強い向かい風を愛した。

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