迷子のなり方

 二週間ほど前、夜行バスに乗る時間になるまでの間、久しぶりに本屋に行った。一度はバス停に着いたけれど、思っていたよりも暇だったからだ。
 しばらく嗅いでいなかった本の匂いに何度か深呼吸をした。小説じゃなくて、エッセイ本に引っ張られた。目次にあるいくつかの文を見て大きく頷いたり、感嘆の息を漏らしたりした。ふと思ったけど、目次ってひらがなのほうが可愛いよね。
 何冊かに目を向けているうちに、開きたくなる本があった。それは自分に必要な言葉だったんだと思う。本当に、ページを捲る手が止まらなかった。時間ギリギリになるまで目を離せなかった。本屋を出てから、またバス停に戻るまで。つまり一度辿った道だ。でも、地図通りに上手く歩けなかった。さっき読んだ本の言葉に脳を撃ち抜かれたようだった。文芸学科として、そういう言葉を学ばなきゃいけないんだなと思った。

 本を読んでみてほしい。文芸学科生は頷いてくれるだろう。本屋までの道を全て忘れてしまうような本に出会うと良いと思う。それはあなたに全く痛みのない大きな暴力性を持っていると言える。

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