煌めきは一瞬

 音を物理的に感じるのは久しぶりだった。目の前の夜空が華やかに彩られるたび、少し遅れてやってくる炸裂音に胸が打たれる。
「わぁ」
「すごーい」
 周りの観客もそれぞれに感動を漏らしてしまうほどに、美しい瞬間が幾度も訪れた。打ち上がる一筋の光、それが弾けて一瞬、花が開く。そのあとはもう、夜空に飲み込まれてしまうだけ。その様子は少し寂しく見えてしまう。 
 歓声の中、後ろから赤ちゃんのぐずる声が聞こえてきた。母親に抱かれながら、その母親の漏らす歓声に嫌気を感じているようだった。
 
 寂しさの理由が少しわかった。僕らと一緒だったからだと思う。生まれた瞬間にいつか死んでしまうのが決まってしまう、そんな残酷さのせいだと思った。それを理解している僕らはいつだって一瞬を大事にしては、その一瞬を永遠に記憶に焼き付けたり、忘れないようにって誰かと小指を結んだりする。
 小説とか映画とかおやつの時間とか、そういういつか終わってしまうものは僕らの生活にとって欠かせないもののような気がする。終わらないものに愛しい一瞬は訪れない。ずっとは続かない健やかな生活の中で、必死に「煌めく一瞬」を探して息をし続ける。

大きな花火が夜空を埋めるたびにみんなで声をあげたが、赤ちゃんだけはぐずりながら母親の胸元に顔を埋めるのだった。愛しい一瞬を抱きしめるには、あまりにも小さすぎる手だった。
 やはり花火と歓声の時間も終わってしまって、人はその場から離れ始めた。僕に寂しさを教えてくれた赤ちゃんは人混みですぐに見えなくなった。
 
 目に焼き付けた花火たちの一瞬一瞬の余韻は強く、今度は僕の記憶から僕の胸をドンドンと打つのだった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?