雑談ができない

 蓮田彩子は無口である。学校では自分から誰かに話しかけることはなかった。話しかけられることはごくまれにあり、それでもひと言三言話して終わりなのがスタンダードであった。
 何故そうなのか? 考えてみたら彩子には雑談ができないと分かった。果たして「雑談」とは何だろう? 天気の話? 最近見たドラマやアニメの話? 彩子は好きなドラマもアニメもある。ただ感想を共有したいという思いを抱くことはない。感情が乏しいのかもしれない。ネット上で匿名で誰かの意見を求めないで書き込むことはあった。確かに匿名ならば薄い交流くらいはできるかもしれない。相手のパーソナリティを一切知らない状態ならば気が楽だからだろうか?
 とある日、無口に替わる言葉として「緘黙」という状態があるのを知った。もしかしたら彩子は場面緘黙なのだろうか? 大学時代に教授に勧められてスクールカウンセリングに通っていた。そのカウンセラーに勧められて精神科にも通い、親戚を通じて別の精神科に通い、精神科医からは「社会不安障害」と診断され、投薬もされたけれど、この性格というか状態なのか判断つきかねる現状からは脱することはないのであった。

 現在はどこにも通っていない。

 個人的に思うに、雑談ができない理由は根本的に他人に興味が持てないからだと思っている。興味がない相手に対して話したいとは思わないですよね。だから彩子はどこに行っても馴染めないで過ごすことになるのです。

 そんな彩子は思う。他人に対して興味がないと思う以前に、自分自身に興味が持てないのだと。そのようにして蓮田彩子は生きています。