友達がいない

 蓮田彩子には友人が一人もいない。「俺、友達いないんだよね」「私、同性の友達いないんだ」なんてことを言う人は数多くいるが、詳しく聞いてみると上京してすぐでまだ友達が出来ていないだけだったり、同性の友人はいなくても異性の恋人はいたりして、スマホの連絡先に登録している人の数がゼロの人なんていない。

 そう、蓮田彩子以外は。

 彩子の電話帳に登録してあるのは自身の母親の連絡先だけである。

 幼少時代から学生時代を通じて閉じられた学校の世界において話す人がいなかった訳ではなく遊ぶ友達も全くいなかった訳ではないのだが、誰かと仲良くしたいと強く願ったことは一度もなかったと彩子は思い返すものである。そんな彩子は特定のクラスがない大学時代に「孤独」を知ることになる。常に一人で行動をする生活が始まったのだ。

 孤独な生活を送るようになって悲しく思うことは時折あった。周りと自分の境遇を比べて寂寥感を感じてしまうことも当然あった。ただ、それでも強く友人を求めることはほとんどなかったように思う。そもそも彩子には「誰かと話したい」という感情が湧かないのであった。

 彩子はヲタクである。大学時代にアニメ、声優を好きになった。初めてコミケに行き声優のイベントに通うようになる。そこには「同士」がいる。話が合うかどうかわからない人種ではなく、自分と近しいと思われる人たちが集っていた。しかし、そんな同類が集まる場でも彩子には友人が出来ることはないのであった。

 ただ、蓮田彩子は内心思うものである。話さなくてもヲタク趣味を持っている人は「心の同士」と感じているのだと。そのようにテレパシーで伝えられたらいいなと、イベント現場では常に本を読んで開演時間を待っている彩子は思っているのです。