9月10日~9月16日 元キスマイ+ポケモン
Kは目の前で起こっていることを受け入れることができなかった。何がどうなってこんな醜い姿になってしまったんだ。
Kはその日の引退ライブですべてを出し切るつもりだった。今まで培ったすべてのアイドル人生をかけて。
Kは芸能界に限界を感じていた。彼のメンタルでは、生き馬の目を抜くような熾烈な業界争いの重圧に耐えられなかったのだ。若手の台頭、他事務所の猛攻、たとえ今はトップの芸能事務所に所属してようともいつどうなるかわからない。それゆえ、彼はアイドルを辞めて教師になる道を選択した。念のためアイドル業と両立して四年制大学を卒業していたので、通信制の大学で教員免許は取得するつもりだった。
しかし、おとずれた彼のアイドルとして最後の見せ場、ドーム天井からのフライング。そこで、事件は起こった。いざ天井から飛び立つ際、彼を支えるハーネスが切れ、そのまま真っ逆さまに地面へと叩きつけられたのだ。
そして、気づいたら鳩の化け物に生まれ変わっていた。いわゆる転生というやつだ。
意識がはっきりと戻ったKだが、どこにも行く当てがなく、ただふらふら草むらを彷徨っていた。
“ガサッ”
音がしたときにはもう遅かった。目の前に閃光が走り、気づいたら得体の知らない球体に閉じ込められていた。
「うわ、外れだよ。初のポケモンがこんな弱そうな鳩みたいなやつだなんて。」
“こっちだって嫌だよ。こんなアホそうなガキ。”
それからも言葉にできない悪口をKは心の中で吐きまくった。
「よし、とりあえず他のポケモンもゲットだぜ。」
この意欲だけが高いトレーナ―気取りの少年のせいで、捕獲後2時間でいきなり野生のポケモンと闘うこととなる。
初対戦の相手は、ネズミの化け物。しかし、中学からアイドル一筋の生活だったKは戦い方を知らなかった。そんなことはお構いなしに体当たりをしてくるネズミ。Kはなす術もなくひん死に追い込まれた。
「ざっこー。もう、このポケモンはダメだな。」
誰も助けてくれない生死を彷徨う状況と少年に対する怒りがKを覚醒させた。
無慈悲に突っ込んでくるネズミに対して、アイドルキック。見事喉元に鍵爪がクリーンヒットする。そこから、アイドルターン。Kの羽がネズミの目を切り裂いた。そして、とどめはバク転からのフットスタンプ。
あまりの勢いにドン引きしている少年を無視し、Kは二階席に届くような雄叫びで、勝利の勝ち名乗りを上げた。
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