Toddy's Episode 27 トッドHCの焦り

 2023-24リーグワンの決勝戦でのブレイブルーパスの勝利により、トッドHCはコーチキャリアの中で初めてのタイトルを獲得した。
 トッドHCは決勝戦から2日後の5月28日に、NZメディアThe Plattform NZのインタビューに答えていて、その動画はYoutubeで視聴出来る。

 このインタビューでは主にNZメディアが関心がある事項が聞かれているので、リッチー・モウンガ選手、シャノン・フリゼル選手、そして世界的にも有名なリーチ・マイケル選手についての質問や、ロビー・ディーンズ監督やスティーブ・ハンセン総監督など日本にいるコーチについても質問が出ている。
 今回は、その中で最も決勝戦当時の様子を伺い知ることができるラストプレーのTMOに関してエピソードを紹介する。


スローフォワードを見た後のトッドHCの反応

 まずはラストプレーの時のトッドHCのリアクションから。

Oh, NO! ! Here we go!  Please…

決勝戦の最終盤、焦るトッドHC
2024/05/26リーグワン決勝戦後のインタビューよりリーグワン決勝戦、TMOにより覆ったプレーから数分間における心境を振り返ってのトッドHC本人のコメント
出典:https://www.youtube.com/watch?v=_ZZv9QdoWJU&list=LL&index=2&t=43s

 決勝戦の最終盤ではいつも落ち着いているトッドHCもさすがに相当焦っていたようである。実はこの焦りの正体と今回のエピソードの理解を深めるためにあるエピソードがあるので先にそちらを紹介したい。

 話は2023年10月28日、フランス・サンドニで行われた2023ラグビーW杯決勝戦に遡る。



TMOプロトコルに関する、あるエピソード

 ラグビーにおけるビデオ判定であるTMO、そのTMOの実施要項を定めたプロトコル。このプロトコルについてニュージーランドの人にはある忘れられない経験がある。それはシャノン・フリゼルやリッチー・モウンガらAll Blacksの選手たちとそれを応援する人々のW杯優勝の夢を阻んだ苦い記憶である。

 ニュージーランド6点ビハインドで迎えた後半54分、リッチー・モウンガの抜け出しに反応したアーロン・スミスがトライを決めたが、その前に存在したラインアウト時のノックオンによりトライが無効にされる場面があった。

 TMOにはプロトコルが定められており、ノックオンやスローフォワードについては以下のように記載されている。

Section 3: Protocol Detail
▪ A match organiser may appoint an official known as a Television Match Official (TMO) who together with the Referee and Assistant Referees, uses available technological devices and video replay systems, within the intents of the guiding principles, to clarify situations relating to:

Law 11: Knock-On or Throw Forward
▪ All Clear and Obvious knock-on or throw forward infringements within two phases leading to a possible try.
▪ All Clear and Obvious knock-ons where the on-field team have awarded the scrum to the incorrect team to feed the ball.

セクション 3:プロトコルに関する詳細 
・試合主催者は、テレビジョンマッチオフィシャル(TMO)と呼ばれる審判員を指名することができる。この審判員は、レフリーおよびアシスタントレフリーとともに、基本的ガイドラインの意図の範囲内で、利用可能な技術装置およびビデオ映像再生システムを使用し、以下の事柄に関する状況を明らかにすることができる。

競技規則第 11 条: ノックオンまたはスローフォワード
トライにつながったかもしれない直前の 2 フェーズで起きたすべての明白 かつ一目瞭然のノックオンまたはスローフォワードの反則。
・オンフィールドチームが、スクラムでボールを投げ入れる権利を反則した チームに与えてしまった明白かつ一目瞭然のノックオンすべて。

TMOプロトコル
英語版:https://resources.world.rugby/worldrugby/document/2022/06/17/d96beea2-759d-4856-b8db-f4aa13d5cc75/2022-TMO-protocol-Approved-by-Council-May-2022-v2.pdf
日本語版:https://passport.world.rugby/media/4inptoxw/2022-tmo-protocol-approved-by-council-may-2022-jp.pdf

 プロトコルによると、トライとその前のトライにつながったかもしれない2フェーズ、つまり合計3フェーズ以内までに存在するノックオン、スローフォワードはTMO判定の対象となる。
 一方で、アーロン・スミスのトライを無効化したアーディ・サヴェアのノックオンは4フェーズ以上前の出来事であった。また試合中、ノックオンがあったとされたプレーの直後に主審は「ノー、ノックオン」と発言しており、オンフィールドディシジョンはノックオン無し、プレー続行であった。

 仮にアーロン・スミスのトライが有効であった場合にAll Blacksが優勝していたかは不明だが、W杯決勝後にワールドラグビーがこのアーロン・スミスのトライ無効化の判定がルール違反であったことを非公式に認めたが、公に認めることを拒むという出来事があった。

It was called back when TMO Tom Foley spotted a knock-on at a lineout, and referee Wayne Barnes then disallowed the try. However, the knock-on happened four phases before the Smith try, despite the TMO only having the power to look back two phases for any knock-on in the build-up to a try.

TMOはラインアウトでノックオンがあることを指摘し、レフリーはトライを無効であるとした。ノックオンはスミスのトライの4フェーズ前に起こったことであり、TMOはトライにつながる2フェーズ(=合計3フェーズ)以内までしか遡ることはできないのにも関わらず…。

the World Rugby statement read: “As confirmed prior to Rugby World Cup 2023, World Rugby does not publicly comment on match official decisions.

(この件について)ワールドラグビーは以下の声明を出している。「ラグビーワールドカップ2023の前に確認されたように、ワールドラグビーは試合の審判の決定について公にコメントしません。」

出典:https://www.rugbypass.com/news/world-rugby-statement-rugby-world-cup-final-springboks-all-blacks/

 すでに決勝戦後のことであったが、この時のワールドラグビーの対応には落胆の声が大きかった。


トッドHCが2023-24リーグワン決勝戦ラストプレー時に考えていたこと

 さて、改めてリーグワン決勝戦に話を戻したい。トッドHCは決勝戦のラストプレーについて以下のように振り返っている。元 All Blacks主将であり、現役のHCであるトッドHCはこのTMOプロトコルのことを重々承知の上で以下のように試合を見ていたという。

We could see the forward pass, and then, you know that if it goes back to more than three phases, they discard it.
(ワイルドナイツ堀江選手の)スローフォワードは見えていました。しかしもし3フェーズより多くフェーズが重なると、レフリーはそれを破棄してしまう。

Oh, I have to say like my life was flashing in front of my eyes again.
It is what it is like I had it in my mind.
(その瞬間)私の人生がまた、私の目の前で閃光していたような感覚であったと言わざるを得ないです。それがあの時の私の心境です。
※トッドHCは2014年SR決勝も最後の最後のペナルティで逆転負けを喫しているため、また(Again)と言っています。

But just so pleased that the right dicision was made.
しかし、正しい判断が下されたことをとても喜んでいます。

It is touch and go you always know that in finals like.
あなたがよく知るように、決勝戦のような試合ではこのようにヒヤヒヤした展開になることが常ですね…苦笑

トッドHCのインタビュー
https://www.youtube.com/watch?v=_ZZv9QdoWJU&list=LL&index=2&t=43s

 というわけで、トッドHCにはスローフォワードがあったことは分かっていて、4フェーズ以上経過してこれが無効となることを恐れていたようである。

 プロセスはどうであれ、結果としてブレイブルーパスは優勝することが出来た。インタビュー動画のタイトルにある通り、これがトッドHC初のコーチとしてのタイトル獲得になった。



 同インタビューの中で、インタビュアーに聞かれた「ブレイブルーパスの優勝により2011年、2014年のゴーストは埋葬できましたか?」という質問に対して、トッドHCは「ええ」といつもの穏やかな口調で答えた。




※本エピソードでは前出動画におけるインタビュー順の通りではなく、質問の順番や回答の内容を記事用に一部編集しています(改変はしていないつもりです汗)。元の内容が知りたい!という方はぜひ動画をご視聴ください😊

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?