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【MTGミステリー】変なドラフト



これは、あるドラフトのデッキである。

あなたはこのデッキの異常さがわかるだろうか。

おそらく、一見しただけではごくありふれたデッキに見えるだろう。

しかし、注意深くすみずみまで見ると、デッキのそこかしこに奇妙な違和感があることに気づく。
その違和感が重なり、やがて一つの事実に結びつく。

それはあまりに恐ろしく、決して信じたくない事実である。

1.知人からの連絡

こんにちはナルシシズムと申します

私の知人にRさんという人がおりまして

先日、彼からとある相談を受けました

Rさんは先日とあるドラフト大会に出場してデッキを作った

彼はカルロフ邸ドラフトをたくさんプレイして、どういったデッキが勝ち組になるか研究したようだ

そうして本番でできたのがこのデッキ

青と緑をベースカラーに白と黒のボムと除去をタッチした欲張りデッキ

カードパワーの高さに彼は好感を持ったという

ただデッキに不可解な点があった

それがこれだ

一つのデッキにレアが6枚もある

プレイする上で不都合はないが、なんとなく気味が悪いので私に相談しようと思ったらしい。

Rさんによると「緑のエンチャントってそういうの詳しいでしょ。」とのことだ。

緑のエンチャントをなんだと思ってるのか。

しかし、偶然にも私の知り合いに栗原さんというブースターパック設計士がいる。
私も謎のデッキというオカルトチックな話に少し興味を持ったので、栗原さんに相談してみることにした。


2.栗原さんの推理

栗原さんには前もってドラフトのデータを送り、電話で話を聞くことにした。以下、栗原さんとの会話を記載する。

ナルシシズム:栗原さん、お久しぶりです。お時間とっていただいてありがとうございます。

栗原さん:いえいえ、ナルシシズムさん。ところで送ってもらったデッキのことですが…

ナルシシズム:ちょっとレアが多い気がするんですが、これについて何かわかりますか?

栗原さん:うーん…一つ言えるのは、これが偶発的に作られたものだということですね。

ナルシシズム:偶発的に…ですか?

栗原さん:カルロフ邸ブースタードラフトはプレイブースターによって行われてますよね。プレイブースターのパックにおけるレアの封入枚数は平均すると1.4枚

基本根本 #16 :プレイ・ブースター

栗原さん:自分のパックだけなら4.2枚のレア。色が合わないことや、他家から流れてくることを考えると、一つのデッキにだいたい3~4枚のレアが入ることになると思います。

ナルシシズム:なるほど、じゃあ一つのデッキに6枚、しかもサイドボードにも1枚、合計7枚もレアがあるのは不自然ということですね?

栗原さん:今までの通常パックのドラフトならそう考えるのが妥当でしょうね。しかし、今回はプレイブースターでのドラフト。ごく僅かですが起こりえると思います。

ナルシシズム:そうか。プレイブースター特有の振れ幅の広さが招いた偶然の産物、と。

栗原さん:そう考えるのが自然ですね。

ナルシシズム:なるほど!じゃあオカルト的な話ではないんですね。

栗原さん:そうですね。ただ……

ナルシシズム:え?

栗原さん:あの、ちなみにこのドラフトデッキって何で作ったんですか?

ナルシシズム:ドラフトマンサーという、ブラウザ上でドラフトを再現できるツールです。

栗原さん:どなたが作成したドラフトかわかりますか?

ナルシシズム:いやあ、そこまではちょっと…。何か気になります?

栗原さん:いや、最初にこのドラフトログを見たときにね、ずいぶん変なログだなって思ったんですよ。

ナルシシズム:そうですか?デッキにレアがちょっと多いくらいで、特に気にならなかったんですが…。


栗原さん:私が変だと思ったのは同じレアの多さなんです。

ナルシシズム:同じレア…?

1-4

栗原さん:ドラフトのログを見てください。何か気づきませんか?

ナルシシズム:うーん…あれ?

2-5
2-6

ナルシシズム:ジュディスが4枚も…

3-5


栗原さん:そう。それに1-3もおかしいんです。

1-3

栗原さん:不撓の門番は十分初手級のカードです。しかも白はこの環境のトップ色、誰もがとりたいカードだと思うんですよね。

ナルシシズム:たしかに変ですね。じゃあ、このドラフトはやはりなにかおかしかったということですか?

栗原さん:今までの話を総合するとそうなってしまいますね。


ナルシシズム:改めてログを見てるのですが、トロスターニへの御目通りも3枚出てるんですね。同じレアが4枚+3枚、これって珍しくないですか?

栗原さん:ないことはないですが、あまり見ないですね。そういえば、白黒の諜報ランドも複数でてますね。

ナルシシズム:たしかに…。変なドラフトですね。そうするとどうでしょう。このデッキはプレイしない方がいいですか?

栗原さん:まあ、デッキだけではなんとも言えませんが、私だったらプレイしませんね。

ナルシシズム:そうですか…。


━━━私は栗原さんに礼を言い電話を切った。

デッキを見る。

言われてみれば不思議なデッキだ。

想像を巡らす。
ドラフト中のRさん。
卓内をぐるぐる回る4枚のジュディス。

多すぎるレア。
プレイブースターならありえる範囲か。


本当にそうか?


そのとき、ある憶測が頭に浮かんだ。あまりにばかばかしい憶測。でも…

同卓した他の人のデッキも見てみる。

これは…

偶然だろうか?それとも…

3.他のデッキ

私は再び栗原さんに電話をかけた。

ナルシシズム:もしもし、栗原さん。たびたびすみません。

栗原さん:いえいえ、なにか気づきました?

ナルシシズム:あの、やっぱりデッキののことが気になって、もしかしてほかの人のデッキが参考になるるんじゃないかと思ったんです。
それで参加した大会のログから他参加者のデッキをみたんですが…


Rさんの1回戦の対戦相手


Rさんの2回戦の対戦相手

ナルシシズム:思考への侵入が2枚もあるんですよ。

栗原さん:ああ、たしかに…

ナルシシズム:それで…まあ、これは素人のばかげた考えだとは思うんですけど、このドラフトは開始時点でなにか異常があったんじゃないかと。

栗原さん:異常?

ナルシシズム:たとえばですよ。参加者の中に特定のレアが出れば勝てるという人がドラフトをハッキングしてレアが出る確率そのものを上げるとか…
そういうことがあったんじゃないかいと思ったんですが…どうでしょうか…?


栗原さん:うーん…まあ、面白い考えではあると思いますけど…。

ナルシシズム:考えすぎですか…

栗原さん:わざわざそこまでするかな…とは思いますね。

ナルシシズム:まあ、そうですよね。すみません。なんか突然思いついてしまったもので…。今のは忘れてください。


━━━私は急に恥ずかしくなった。なにを子供の妄想みたいなことを真剣にしゃべってしまったんだ。
話を切り上げようとしたその時、電話の向こうで栗原さんがなにやらつぶやくのが聞こえた。

栗原さん:…開始時の異常…いや、待てよ。もしそうだとするとこのドラフトは…。

ナルシシズム:え?どうかしました?

栗原さん:いえ、今の話を聞いてちょっとね…。
ところでナルシシズムさん。このドラフトはドラフトマンサーで作成したんですよね。

ナルシシズム:はい

栗原さん:ナルシシズムさんこの卓の合計のレア枚数ってわかりますか?

ナルシシズム:え、レアの合計枚数ですか…?今数えてみますね
わかりました。全部で53枚あったみたいです。

栗原さん:53枚ですか…多すぎますね、1卓の合計レア枚数の平均は33.6ですから大きく外れてます。大会という場、多すぎるレア、ドラフトマンサーというツール、これらを組み合わせると一つのストーリーが見えてくるんです。

ナルシシズム:ストーリー?

栗原さん:まあ、それこそばかげた考えだと思うんですけど、私の妄想だと思って聞いてください。


栗原さんは物語を語るように話し出した。


4.妄想

栗原さん:この大会の主催者さんはドラフトの大会を開いた。
ある目的のために。

大会を盛り上げるために賞金を用意し、招待選手も呼んだ。どういった関係かはわからないが、それなりに社会的地位のある人。たとえば、会社の重役、中小企業の社長。

大会は進行し、ドラフトが始まる。

ドラフトマンサーに参加者がアクセスしたのを確認すると事前に用意してあったコンピューターウィルスをターゲットに送り込み、PCを暴走させて爆発させ、その爆発にターゲットを巻き込んで殺す。ドラフトにレアが多かったのはウィルスによる作用でドラフトマンサーに誤作動が起こっていたからではないか。


ナルシシズム:は!?え!?なんでそんな話に…?

栗原さん:まあまあ、これはあくまで私の妄想ですから。

つまりこの大会はごく一般的なドラフトに見せかけた、殺し屋の仕事現場である。そういう仮説が成り立つんです。

ナルシシズム:……殺し屋……って………

栗原さん:もし現代の日本に殺し屋がいたとしたら、こういう形で我々の身近に平然と暮らしているかもしれない。どうでしょう?

ナルシシズム:いや…どう?って言われても…。

栗原さん:まあ、あくまで私の妄想ですよ。こう考えたら面白いよねってだけの話です。


━━━ドラフトを利用して人を殺す人間。そのために開かれた大会。面白いわけがない。そもそもそんな方法不確実もいいところだ…ダンガンロンパのトリックよりひどいじゃないか…

栗原さんとの電話を終え、私はしばらくぼんやりしていた。


栗原さんの話が本当だったら…どうする?

警察に届け出るか?

まさか。まともに取り合ってもらえるわけがない。

だいたい、ドラフトを使った殺人なんて現実離れした話、大の大人がなにを真剣に話していたんだ。栗原さんは最初から私をからかうつもりだったのかもしれない。彼も言っていたが、ばかばかしい妄想だ。


もう考えるのはよそう。夕食の支度でもしようかと思ったその時、

電話が鳴った。

5.終幕

ナルシシズム:もしもし

━━━どうも、Rです!

ナルシシズム:あ、Rさん!お久しぶりです。実は今さっきまでブースターパック設計士の栗原さんと話してたんですよ。それでね、ちょっと笑っちゃうんですけど、栗原さんが言うにはあのドラフトは…

Rさん:あー、実はそれについてちょっと…ナルシシズムさんに謝らなきゃいけないことがあって。あのドラフト開始時点で設定を間違ってたみたいなんです。

ナルシシズム:え、どういうことですか?

Rさん:大会のやりとりのログを見たら、主催者さんが「卓によってレアの設定を間違えてたけど、同卓で当たるから許して、てへぺろ。」と言っていました。

ナルシシズム:…!?

Rさん:それで人づてに聞いたんですが、大会の主催が初めてらしくて。で、栗原さんはなんておっしゃってたんですか?

ナルシシズム:え……と。ああ、いや………………特になにも…。

Rさん:そうですか。

ナルシシズム:あの、ところでちょっとお聞きしたいんですけど、あのドラフトの主催者って…今どこに住んでるかとか分かりますか?

Rさん:ああ、この前関係者に聞いたんですけどね、大会が終わった途端に連絡がとれなくなっちゃったらしいんですよ。

ナルシシズ:そう…ですか

Rさん:面倒かけちゃって本当すいません。じゃ、また今度飯でも!


Rさんは元気よく電話を切った。

大会が無事終了した以上、もうあのデッキはは私になんの関係もない。

忘れよう。追究したってしかたない。


私はドラフトログを入念に丸めてゴミ箱に捨てた。



おわり



※この記事は事実をもとにしたフィクションとパロディでできています

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