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〈インタビュー〉 小さな養鶏場にみる     しあわせの畜産スタイル


「すでにあるものを活かし、人にも動物にも自然にも優しい循環をつくる養鶏」をモットーにしている自然養鶏農家の横峯 哲也さん。大阪府茨木市清阪の山里に小さな養鶏場として清阪terraceを始めて11年超。有畜型循環農業をベースに平飼いの自然卵にこだわる。アニマルウェルフェアが注目
されるいま、人と鶏のしあわせな畜産がここにある。


ーなぜ自然養鶏農家になろうと思われたのですか?

 農業系ベンチャー企業の仕事で清阪を訪ねたのは2010年春でした。「こんないいとこあったんだ」って感じで、すっかり気に入りました。耕作放棄地を再利用させるためにここに来たんですが、山奥すぎて会社的に扱えなかったんです(笑)。その年、20年ぶりに母の実家の山口県祝島へ行きました。するとぼくが子どものころ見たときより、海辺がきれいになっていました。畜産農家が放牧する豚が島の残飯をすっかり食べちゃうから、生ごみが海に浮かばなくなっていたんです。豚たちは荒れ地を踏みならし、畑の再生にも一役買っていました。
 この畜産のありように心惹かれたことが起点でした。清阪terraceで米作りを始めたのは翌11年3月。養鶏は、中島正さんの『自然卵養鶏法』を手本にしました。

循環農業と鶏との約束事

ー有畜型循環農業とはどのようなものですか?

 うちの畑や田んぼは鶏糞以外、これといった肥料を使っていません。鶏糞をまくと別名ヒヨコ草と呼ばれるハコベの成長を促します。これがまた鶏たちの恰好の餌になります。
 ここの土には栄養成分や微生物などが豊富に含まれていることが土壌分析からわかっています。よい餌から良質な卵と鶏糞が得られ、卵は人へ、鶏糞は健康な野菜を育みます。これが有畜型循環農業です。

 それから、こだわりの自家配合の発酵飼料は、地元の生産者や農家から出る副産物から造ります。それは大麦を粉砕したビールかすや野菜くずなど、飼料として理想的なものばかりです。本来なら廃棄されるはずの副産物をもらい受け、飼料にすることによって地域社会の中で好循環を生みだしています。


お天気のよい日は鶏舎から出て草をついばむ


ボスとおぼしき雄鶏と、その下で餌をついばむ雌鶏

ーアニマルウェルフェアについてお聞かせください。

 ある動物学の本にこう書かれていました。家畜化への長い歴史の中で、動物は人間に飼われることで飢えや外敵から守られ、その代償として卵や肉を提供してきたと。この動物と人間との〝約束事”がすごく腑に落ちたんですよ。だから、鶏が安心して暮らせる環境を提供し、健康的な餌を与えることがぼくの仕事だと思っているんです。
 ここにいる350羽は全て平飼いで、鶏本来の特性である砂浴びや羽ばたき、くちばしで地面をつつくなどの行動をとっています。天気がよければ鶏舎から庭に出て草や虫をついばむのです。アニマルウェルフェアを特に意識することはありませんが、小さな養鶏場にこだわりながら、安全でおいしい卵づくりがぼくのスタイルです。

 以前、ある人からこんな質問を投げかけられました。「(過密飼養の)ケージ飼いじゃ、なんでだめなんですか?」と。「(鶏が)かわいそうだ」。それが普通の感覚だと思っていましたから、ちょっとショックでした。でも考えてみると、現代社会が大きなケージの中にある、といえなくもない現実があります。どこか社会にひずみがあって自然にも動物にも、人の心にもしわ寄せが……。生産性を過度に優先させれば動物本来の特性は失われます。

聞き手 / 写真・原田修身

『消費者情報』Web版501号(2022年8月配信)インタビュー記事はこちら
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