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【週刊消費者情報】         公益通報者保護制度とは 其の二

『消費者情報』No.472(2016年6月号)復刻・巻頭インタビュー

公益通報の本質は、違法行為の事実を国民に知らせること
公益通報者が守られる社会を!ネットワーク代表
串岡 弘昭(くしおか・ひろあき)さん

トナミ運輸を定年退職した2006年以降、串岡弘昭さんは講演活動や内部告発者の支援などを行っている。2015年6月から、公益通報者保護法改正に向けた検討会の委員を務めている。内部通報をめぐる自らの経験と、当事者から見た公益通報者保護制度のあり方について聞いた。

独占禁止法違反は”八百長試合”と同じだ
Qー自著『ホイッスルブローアー=内部告発者』では、企業不祥事の背景や告発者へのいやがらせなど、数々の、問題点が描かれていました。

A-僕の経験から言いますと、企業が違法行為や不正を行うときは、必ず理由があります。超法規的で、自己正当化する論理です。その論理に従業員はなかなか抗えません。なぜかと言えば、法律よりも会社から受ける報復の方が何倍も怖いからです。僕は結婚して子どもが誕生する前に、すでに会社での将来はなくなっていました。何十年に及ぶ報復はとても過酷なものでした。

 小・中学生が学校でいじめに遭って自殺する事件がありますね。それと同じで、企業内でもひどいいやがらせが行われるわけです。そのような報復を受ければ、たいていの人は精神を病んでしまい辞職に追い込まれます。僕の場合は、会社との闘いに腹が据わったというか、家族、身内の協力もあって乗り越えることができました。

Q-告発の引き金になったのは「独占禁止法」だったそうですね。

A-ヤミカルテルを告発したきっかけは、「法律を学んでおいて、なぜ違反するのだ」という考え方あったからです。その根本になっていたのが、経済憲法といわれる独占禁止法(独禁法)です。大学時代に学んだこの法律が、僕の生き方に影響を与えたのは確かです。

 自由主義経済の原則は、企業が互いに競争して、より安全で、より安い商品・サービスを消費者に提供する、という能率競争にあります。カルテルはそれを阻害する行為なので、当然ながら独禁法違反になります。当時僕は、この独禁法のルールをそのまま会社にぶつけました。ヤミカルテルというのは、スポーツでいう”八百長試合”ですからね。でも、そんな正義感は、まったく通用しません。たとえそれが正論だとしても、組織の利益に反する行為は認められない、というのが企業論理です。

 利益最優先の結果、顧客の立場を考慮せず、自分たちの繁栄しか考えない業界体質であったことも、告発に踏み切った要因でした。当時、運輸会社の取引先には、畳一枚ほどの広さで商売している問屋さんが数多くいました。大きな会社よりも、そうした零細相手の方が受注しやすい取引関係にあったからです。僕は営業回りで問屋街の人たちと接していましたから、彼らの苦労を少しばかり知る立場にいました。ヤミカルテルによる違法な割増運賃を顧客に負担させるのは、どう考えても良いはずがありません。
                      (聞き手・文 原田修身)
                      
                            〈つづく〉

『消費者情報』Web版編集室 
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