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n枚のコインを投げて表が奇数枚になる確率は?-嫉妬する自分が嫌だという話

計算ドリルの解説で…

先日、いつもの塾の、計算ドリルという宿題の答え合わせをしていたときのこと。僕の通っている塾の数学の先生は、現役で東大理科Ⅰ類に合格し数学科を卒業したという天才だ。(その上小中時代は短距離走で1位以外取ったことがないというズルい人でもある。)この先生の授業は、定義から始め、公式を導出し、難しい問題の解法がなぜそうなるのかを丁寧に教えていく正統派のわかりやすい授業だ。

そしてこの塾の特徴は、テキストと宿題を全て先生が作るという点にある。その結果、教材に関して先生がわからないことが全くないので生徒としてはとても心地よい。また、毎週ある小テストや、宿題の計算ドリルの解答・解説にはとてもすべて一人で作ったとは思えないほどの緻密で、必ずわからせようとしてくる。

今回書きたいのは、その解説の中で出てきた補足説明についてのことだ。

問題

(1)8枚のコインを投げる。表の枚数が奇数となる確率を求めよ。
(2)n枚のコインを投げる。表の枚数が奇数となる確率を求めよ。

計算ドリル、計算ドリル解答解説より、一部表現のため改変

計算ドリルの中の一題、「8枚のコインを投げる。表の枚数が奇数となる確率を求めよ。」という問題と、その解説に書いてあった「8を一般のnに変えても同じ議論ができるので」という一説が問題だった。

上の問題の(1)は正直言って簡単すぎるが、(2)が意外に難しい。しかし、8枚の時の本質を突き詰めて考えることでわかるようになっている。

(1)解答解説

表裏の出方は全部で$${2^8=256}$$通りあり、このうち、表が奇数枚出るのは$${8\raisebox{0.25em}{$C$}1+8\raisebox{0.25em}{$C$}3+8\raisebox{0.25em}{$C$}5+8\raisebox{0.25em}{$C$}7=128}$$通りあるので、確率は$${{128 \over 256}={1 \over 2}}$$です。確率が$${{1 \over 2}}$$になるのは偶然ではありません。
$${A=8\raisebox{0.25em}{$C$}0+8\raisebox{0.25em}{$C$}2+8\raisebox{0.25em}{$C$}4+8\raisebox{0.25em}{$C$}6+8\raisebox{0.25em}{$C$}8}$$、$${B=8\raisebox{0.25em}{$C$}1+8\raisebox{0.25em}{$C$}3+8\raisebox{0.25em}{$C$}5+8\raisebox{0.25em}{$C$}7}$$とすると、二項定理から $${A+B=(1+1)^2=2^8}$$、 $${A-B=(1-1)^8=0}$$が得られ、$${A=B=2^7}$$となることが分かります。この8を一般の$${n}$$に変えても同じ議論ができるので、コインが何枚であっても確率は$${{1 \over 2}}$$になります。

計算ドリル解答・解説より

小問集合の中の一問の解説にここまで書く先生はそうそういないと思う。
蛇足ながらこの解説のポイントを書きたいと思う。

二項定理と2の累乗の関係

実は数Ⅱの教科書にも書いてあるのだが、

$$
n\raisebox{0.25em}{$C$}0+n\raisebox{0.25em}{$C$}1+\cdot\cdot\cdot+n\raisebox{0.25em}{$C$}n-1+n\raisebox{0.25em}{$C$}n\\=n\raisebox{0.25em}{$C$}0\cdot1^n\cdot1^0+n\raisebox{0.25em}{$C$}1\cdot1^{n-1}\cdot1^1+\cdot\cdot\cdot+n\raisebox{0.25em}{$C$}{n-1}\cdot1^1\cdot1^{n-1}+n\raisebox{0.25em}{$C$}n\cdot1^0\cdot1^n\\=(1+1)^n\\=2^n
$$

という式がある。これは難関大学の難しい問題でしれっと出てくるし、調べてみたら(2)の証明に使うような面白い証明問題もよくあるようなので、調べてみてほしい。
参考:二項係数nCrの和の等式の証明(二項定理の利用) 受験の月 様

A-Bを計算する理由

これも数Ⅱの最初に等式の証明という節でやるし、当たり前の話だが定義として、$${\Alpha-\Beta=0 \iff \Alpha=\Beta}$$が言える。$${\Alpha=\Beta}$$が言えれば、$${A+B=2^8}$$が$${A+B=A\times2=2^8}$$であり、$${A=\Beta=2^8\times{1 \over 2}=2^7}$$であることがわかる。これは数学、ひいては科学全般に言えることだが、AとBの中身だけを見てなんとなくで「同じ大きさっぽいな」と結論づけてはいけないのである。その発想自体は素晴らしいので、ちゃんと実験をして、裏付けないといけない。(自戒)

さて、僕は太字の部分を示したい欲求に駆られ、なんとか示して先生に「これどうですか?」とお伺いを立てた所、「上手く示せてる」とのお言葉を頂いた。

(2)僕の解答

【証明】
表裏の出方は全部で$${2^n}$$通りである。
(1)$${n}$$が奇数のとき
表が奇数枚出るのは、
$${n\raisebox{0.25em}{$C$}1+n\raisebox{0.25em}{$C$}3+n\raisebox{0.25em}{$C$}5+\cdot\cdot\cdot\cdot\cdot\cdot+n\raisebox{0.25em}{$C$}{n-4}+n\raisebox{0.25em}{$C$}{n-2}+n\raisebox{0.25em}{$C$}n}$$通りである。これを$${A}$$とする。
このとき、
$${n\raisebox{0.25em}{$C$}0+n\raisebox{0.25em}{$C$}2+n\raisebox{0.25em}{$C$}4+\cdot\cdot\cdot\cdot\cdot\cdot+n\raisebox{0.25em}{$C$}{n-5}+n\raisebox{0.25em}{$C$}{n-3}+n\raisebox{0.25em}{$C$}{n-1}}$$を考える。これを$${B}$$とする。

$${A+B=n\raisebox{0.25em}{$C$}0+n\raisebox{0.25em}{$C$}1+n\raisebox{0.25em}{$C$}2+\cdot\cdot\cdot+n\raisebox{0.25em}{$C$}{n-2}+n\raisebox{0.25em}{$C$}{n-1}+n\raisebox{0.25em}{$C$}n=2^n}$$

$${A-B}$$
$${=-({n}\raisebox{0.25em}{$C$}{0})+({n}\raisebox{0.25em}{$C$}{1})-({n}\raisebox{0.25em}{$C$}{2})+\cdot\cdot\cdot+(n\raisebox{0.25em}{$C$}{n-2})-(n\raisebox{0.25em}{$C$}{n-1})+({n}\raisebox{0.25em}{$C$}{n})}$$
$${=n\raisebox{0.25em}{$C$}0\cdot1^n\cdot(-1)^0+n\raisebox{0.25em}{$C$}1\cdot1^{n-1}\cdot(-1)^1+n\raisebox{0.25em}{$C$}2\cdot1^{n-2}\cdot(-1)^2+\cdot\cdot\cdot+(n\raisebox{0.25em}{$C$}{n-2})\cdot1^2\cdot(-1)^{n-2}+(n\raisebox{0.25em}{$C$}{n-1})\cdot1^1\cdot(-1)^{n-1}+(n\raisebox{0.25em}{$C$}n)\cdot1^0\cdot(-1)^n}$$
$${=(-1+1)^n}$$
$${=0}$$ よって、$${A=B}$$

求める確率は$${{A \over 2^n}}$$であるが、上で示したことを使って、
$${{A \over 2^n}={A \over A+B}={A \over 2A}={1 \over 2}}$$と変形できるので、$${1 \over 2}$$

(2)$${n}$$が偶数のとき
表が奇数枚出るのは、
$${n\raisebox{0.25em}{$C$}1+n\raisebox{0.25em}{$C$}3+n\raisebox{0.25em}{$C$}5+\cdot\cdot\cdot\cdot\cdot\cdot+n\raisebox{0.25em}{$C$}{n-5}+n\raisebox{0.25em}{$C$}{n-3}+n\raisebox{0.25em}{$C$}{n-1}}$$通りである。 これをこれを$${C}$$とする。

このとき、
$${n\raisebox{0.25em}{$C$}0+n\raisebox{0.25em}{$C$}2+n\raisebox{0.25em}{$C$}4+\cdot\cdot\cdot\cdot\cdot\cdot+n\raisebox{0.25em}{$C$}{n-4}+n\raisebox{0.25em}{$C$}{n-2}+n\raisebox{0.25em}{$C$}n}$$を考える。これを$${D}$$とする。
$${C+D=2^n}$$

$${D-C}$$
$${=({n}\raisebox{0.25em}{$C$}{0})-({n}\raisebox{0.25em}{$C$}{1})+({n}\raisebox{0.25em}{$C$}{2})+\cdot\cdot\cdot+(n\raisebox{0.25em}{$C$}{n-2})-(n\raisebox{0.25em}{$C$}{n-1})+({n}\raisebox{0.25em}{$C$}{n})}$$
$${=n\raisebox{0.25em}{$C$}0\cdot1^n\cdot(-1)^0+n\raisebox{0.25em}{$C$}1\cdot1^{n-1}\cdot(-1)^1+n\raisebox{0.25em}{$C$}2\cdot1^{n-2}\cdot(-1)^2+\cdot\cdot\cdot+(n\raisebox{0.25em}{$C$}{n-2})\cdot1^2\cdot(-1)^{n-2}+(n\raisebox{0.25em}{$C$}{n-1})\cdot1^1\cdot(-1)^{n-1}+(n\raisebox{0.25em}{$C$}n)\cdot1^0\cdot(-1)^n}$$
$${=(1-1)^n}$$
$${=0}$$ よって、$${C=D}$$
求める確率は$${{A \over 2^n}}$$であるが、(1)と同様にして$${1 \over 2}$$
(1), (2)より、$${n}$$枚のコインを投げるとき、表が奇数枚出る確率は$${1 \over 2}$$である。$${\blacksquare}$$

この証明で工夫した点は二点ある。一点目は、$${n}$$が奇数の場合と偶数の場合で場合分けした点だ。特に場合分けしないで実験したとき、コンビネーションの和から$${2^n}$$を導くときに$${(-1)^n}$$が-1になるか1になるかが分かれてしまうため、場合分けをしなければならないと思った。二点目は、$${n}$$が偶数のとき、$${D-C}$$で計算したことだ。$${C-D}$$で計算すると$${-(n\raisebox{0.25em}{$C$}0)}$$からは$${(n\raisebox{0.25em}{$C$}0)\cdot1^n\cdot(-1)^0}$$も$${(n\raisebox{0.25em}{$C$}0)\cdot1^0\cdot(-1)^n}$$も再現できない($${n\raisebox{0.25em}{$C$}r}$$の係数が-1にならない)事に気づき、$${D-C}$$で計算するように変えた。
((2)の場合分けで表が奇数枚でるときを$${C}$$と置いたが、$${n\raisebox{0.25em}{$C$}r}$$と見分けづらいのと、僕の記事作成上の技術不足で$${n\raisebox{0.25em}{$C$}{n-2}}$$などが$${n\raisebox{0.25em}{$C$}n}$$から-2したものとが見分けづらい。申し訳ない。)

先生の(1)の問題の解説を読んだ上とはいえ、このような工夫した点があるから、数学の難しめの問題をあまり解けたことのない僕でも自信がつくような良い解答が書けたと思った。学校の同じ学年の中には、少なくともノーヒントで解ける人はいないとまで思った。この時までは。欺瞞だったのだ。

(2)友人の解答

【証明】
表の出る確率$${p={1 \over 2}}$$、裏の出る確率を$${q={1 \over 2}}$$とする。
$${n}$$枚中、表の枚数が奇数となるには、
$${n\raisebox{0.25em}{$C$}1(p)^1(q)^{n-1}+n\raisebox{0.25em}{$C$}3(p)^3(q)^{n-3}+n\raisebox{0.25em}{$C$}5(p)^5(q)^{n-5}}$$を計算すれば良い。これを$${*}$$とする。
ここで、二項定理から、$${*}$$を計算する導出過程として、
$${(x+1)^n}$$から$${(x-1)^n}$$を引くという例を上げる。
$${ (x+1)^n=n\raisebox{0.25em}{$C$}0+(n\raisebox{0.25em}{$C$}1)x+(n\raisebox{0.25em}{$C$}2)x^2+(n\raisebox{0.25em}{$C$}3)x^3+\cdot\cdot\cdot}$$
$${ (x-1)^n=n\raisebox{0.25em}{$C$}0-(n\raisebox{0.25em}{$C$}1)x+(n\raisebox{0.25em}{$C$}2)x^2-(n\raisebox{0.25em}{$C$}3)x^3+\cdot\cdot\cdot}$$ なので、$${(x+1)^n-(x-1)^n}$$を計算すると、$${x=1}$$のとき、
$${2^n=2(n\raisebox{0.25em}{$C$}1+n\raisebox{0.25em}{$C$}3+\cdot\cdot\cdot)}$$
$${2^{n-1}=n\raisebox{0.25em}{$C$}1+n\raisebox{0.25em}{$C$}3+\cdot\cdot\cdot}$$ となる。

このように、$${*}$$の導出過程の例の結果は、$${*}$$と類似している。同様に考えた場合、
$${(p+q)^n=n\raisebox{0.25em}{$C$}0{\cdot}{q}^n+n\raisebox{0.25em}{$C$}1(p)^1(q)^{n-1}+n\raisebox{0.25em}{$C$}2(p)^2(q)^{n-2}+\cdot\cdot\cdot}$$
$${(p-q)^n=n\raisebox{0.25em}{$C$}0{\cdot}{q}^n-n\raisebox{0.25em}{$C$}1(p)^1(q)^{n-1}+n\raisebox{0.25em}{$C$}2(p)^2(q)^{n-2}+\cdot\cdot\cdot}$$ なので
$${(p+q)^n-(p-q)^n=2\{n\raisebox{0.25em}{$C$}1(-p)^1(q)^{n-1}+n\raisebox{0.25em}{$C$}3(-p)^3(q)^{n-3}{\cdot\cdot\cdot}\}}$$
このとき、
$${p+q={1 \over 2}+{1 \over 2}=1}$$、$${q-p={1 \over 2}-{1 \over 2}=0}$$ より、
$${1^n-0^n=2\times*}$$
$${*={1^n \over 2}}$$ 以上より、確率は$${{1 \over 2}}$$ $${\blacksquare}$$ 

まず、ノーヒントで解かれるとは思わなかった。そして次に、場合分けをしていない!これは解答に不備があるというわけではない。場合分けをしなくても証明できる点が素晴らしい。そのために、僕が頑張って答えの中身を場合分けしている間に彼は、答えを$${*}$$と置くことで間接的に求めている。直接的に求めるには場合分けをしなければならないが、間接的に求めれば$${-p}$$の指数が確定しているために場合分けをしなくてもよいのだ。
初心者でもわかりやすいのは僕の証明かもしれないが、鮮やかさでは数段差をつけて彼の証明が勝る。

まとめ

このような点で僕は、彼の証明に感嘆したのだが、一方で、強烈な嫉妬もした。彼から送られてきた証明を読んでいる間、まず動悸がしてきた。次に「あれ、なんかあってるっぽいぞ?!」という焦燥。そして最後には「何とかして穴を見つけてやる……!」というルサンチマンの精神とその敗北。
僕は数学力と人間力の双方で友人に大敗を喫した。(彼は性格もすこぶるよく、かつイケメンである。)

そして僕は今、こんなくだらないルサンチマンの心ではなく、「僕も勉強しよう」という向上心を持とうと思っている。……といってもやっぱり悔しいし、記事の質を高めたいのもあるので彼の証明も含め、この記事に誤りがあったら訂正のコメントをしてほしいと思います。よろしくお願いします。

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