人生オワタ

 陽が沈む頃、アスファルトの道を一人の男が歩いていた。彼の名前は神谷亮、40歳。人生の浮き沈みに疲れ果て、何もかもがうまくいかないと感じる日々を過ごしていた。


 神谷は大学を卒業してから、大手企業に就職した。最初の数年は順調だったが、会社のリストラが始まり、昇進の機会もなくなった。同僚たちは次々と辞めていき、自分だけが取り残されたように感じた。


 家庭も同じだった。結婚して15年、妻とはすれ違いの日々が続いた。子どももなく、家庭内は冷え切っていた。ある日、妻から突然「離婚したい」と告げられた。理由を聞いても、「もうあなたと一緒にいるのが辛い」としか答えなかった。


 神谷は一人ぼっちになった。会社では孤立し、家庭も失った。友人も次第に離れていき、酒に溺れる毎日だった。ついには体を壊し、入院生活を余儀なくされた。


 退院してからも仕事には戻れず、失業保険で細々と生活をしていた。貯金も底を突き、借金まで背負う羽目になった。彼の心は完全に折れていた。


 ある日、神谷はふと海辺の崖に立っていた。静かな波音が耳に届く中、彼は深い溜息をついた。「もう終わりだな」と呟くと、目を閉じて前に一歩踏み出そうとした。


 その瞬間、小さな手が彼の腕を掴んだ。振り向くと、そこには一人の少女がいた。彼女の名前は美咲。彼女の目は涙で溢れていた。
「おじさん、どうしたの?」
 美咲の目は純粋そのもので、神谷の心に一筋の光が差し込んだ。


 美咲は震える声で続けて話した。「私もね、学校でいじめられてるんだ。教室で物を隠されたり、みんなから無視されたり、時には乱暴されたり…。毎日が地獄みたいで、生きるのが辛い。それで辛くて…一緒に死のうって思ったんだ」


 神谷は驚きと共に、美咲の言葉に心を揺さぶられた。
 しかし、彼の中に何かが目覚めた。
「君を死なすわけにはいかない!」


 神谷は少女の手を強く握りしめた。
「君にはまだ未来がある。僕ももう一度頑張ってみる。だから、君も生きるんだ」


 美咲は涙を流しながら、微笑んだ。
「ありがとう、おじさん」


 神谷は美咲と話しながら、崖を離れ、再び町へと戻っていった。人生はまだ終わっていない。再び立ち上がる力を、彼はその瞬間に見つけたのだった。

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