御本拝読「マダムたちのルームシェア」seko koseko

お茶目ユーモア

 2巻が今日発売ということで、この漫画をご紹介。実は、この作品以前に、sekoさんのエッセイ漫画をpixivで拝見して以来ずっと好きだったのです。笑いのセンスがスタイリッシュで、絵もかっこ良さとハイセンスと優しさがスマートに融合されています。
 バリキャリで仕事現役、クールでスマートな沙苗さん(独身)。こちらも仕事は現役、ポップで楽しい物好きな栞さん(離婚後シングルマザーとして娘さん一人を育て上げる)。おっとり主婦、無害無毒に見えて意表をつく晴子さん(息子さんが家庭を持った後旦那さんとは死別)。チャーミングなこの三人が主役、というか、ほとんど三人しか出てきません。
 何かテーマがあるとかはっきりしたストーリーがあるわけではなく、孫がいる年齢のマダムたち三人(学生時代からのお友達)が、ルームシェアして生活する様子をまったりと描いたもの。主に季節のイベントを三人が全力で楽しんだり、ちょっとしたブルーなことも三人なら解消できたり、「家族」とは違う関係だからこその毎日。そして、「家庭」ではない場所だからこその自由。
 ある意味、究極のファンタジーでありフィクション。リアルでこれに近いのは、阿佐ヶ谷姉妹。
 沙苗さんがツッコミ役となることが多いゆるいコメディですが、その沙苗さんにも若干天然の気配(本人はいたって真面目で真剣)があり、都度都度、お互いに的確にツッコミ合いながら話が進みます。そのセリフがとても言葉のチョイスが良い。「漫画」という媒体でありながら、昔ながらの「しゃべくり漫才」を見ている気持ちになります。
 相手を腐したり何かを罵ったりする激しさや、ノリや勢いで押しきるギャグではなく、さらりと面白いことを言う爽やかなユーモア。三人のかわいらしさも相まって、まさにお茶目で面白いマダムたちの日常

sekoさんの線

 もともと、sekoさんの過去の一枚絵にかっこよくてかわいいマダムたちがたくさん描かれていました。めちゃくちゃ細かい描き込みではなく、必要最低限の線と色で表現されるその世界は、とてもスマートでかっこいい。なのに柔らかい印象があり、誰かや何かの模倣や真似でもなく、sekoさんの画力の高さに感服します。
 偉そうなことを言いますが、精密で線や色が多い絵は、情報量が多い分、ちょっとした粗が目立たなくなります。観る側の意識が「描くの大変だったろうな」「すごい描きこみだな」に持っていかれてしまって、引きで観た時のセンスやバランスの印象はちょっと霞んでしまう。
 シンプルな絵ほど、一本の線が担う役割が大きい分、描いた人のセンスと技術がダイレクトに問われる。それが素晴らしいということは、間違いなくその線に至るまでには気が遠くなるほどの練習がある。
 sekoさんの線が、私はすごく好きです。マダムたちの年齢による皴、シミ、体のライン等がさらりと自然に描かれているところも、洋服や背景や小物のディティールも。
 三人それぞれのキャラクターに合ったファッションやヘアメイク、色のチョイスも素敵。sekoさんが本当にファッション好きなんだなとよく分かるし、楽しいだけではなく緻密に計算されて描かれているんだなと伝わってきます。
 私がもともと漫画やアニメ愛好家ではなくて、ファッション画や挿絵愛好家であることも、この漫画が好きな理由かもしれません。フルカラーで大判コミック扱いなのですが、スタイルブックやライフスタイルの棚にも置いてあってほしい。

ギャップが魅力

 登場人物の性格も、とても魅力的ページ数やコマ数が少なくてもそれが十分に伝わるところも、sekoさんの表現力の高さ
 クールで落ち着いて見える沙苗さんは、小さな子どもや後輩たちに本当に優しいし、それを押しつけがましくもしない。まさしく「大人」で、でも天然なお茶目っぷりも発揮。一見すると厳しそうで近寄りがたそうな雰囲気でも、非常にハートフル。そのギャップが沙苗さんのかわいらしさ
 いつも元気で賑やかな栞さんも、そこに至るまでにはたくさん痛みや苦しみがあって、繊細な内面を秘めている。そもそも、沙苗さんと晴子さんをはじめとする周囲の人たちに対する気遣いができるのは、栞さんがむやみに元気やポジティブなだけではなくちゃんと相手を観察しているから
 穏やかでいかにも大人しそうな晴子さんは、実は一番読者に近い存在かもしれません。いわゆる「普通」で、いつも自分の欲求よりも空気を読むことを優先し、波風立たないように振舞ってきた人生。けど、素敵な友達二人とルームシェア生活を始めることで、少しずつ、自分の殻や常識の枠を破っていく人です。実は芯が強いところがあって、きっかけは栞さんや沙苗さんでも、最終的に一番自由に楽しむのは晴子さんだったりして。
 私たちの住む街で、この三人が飄々と暮らしているかもしれない。そう思えるほど、淡々と現実の生活の風景です。現実問題として、今後、高齢社会はこういう形の生き方も考えられるかもしれない。けれど、これはこの三人がとても素敵な人柄で、フィクションの世界だから成立していること、そんなメタ的なギャップも踏まえて、好きな作品です。

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