御本拝読「叶恭子の心の格言 あなたの心にファビュラアスな魔法を」叶恭子

思想や宗教より

 夏休みが終わったのにまだ忙しい謎。そう、返却があるから。毎日引き続きへとへとな図書館員です。おかげで、新しい本はまったく読めていません。まあ、こんなぐったりな状態で新しいものはなかなか心に入って来づらいので仕方ない。
 そんな時、久しぶりに本棚から引っ張り出したら新鮮に私の心を癒してくれたのが、叶姉妹プロデュースの本書。各1ページで短く説かれる叶スピリット、ところどころに姉・恭子さんのファビュラスなドレス姿のグラビア、という本でございます。適当に開いたページに書かれていることを楽しむ、という楽しみ方もできる本。
 本には、所謂「自己啓発本」というジャンルがあります。人生の指南書、とか、悩みや苦しみから救います、的な。大抵、哲学や宗教のジャンルに置かれてます。私も一時期色々悩んで色々読んでみたのですが、どれもいまいちしっくり来ず。唯一、お坊さんの本はなんとなく分かったけど、そのまま仏道を深く探求することもなく。ところが、そんな私に本書は優しく神々しい癒しを与えてくれました。(※別に叶姉妹の回し者でも何らかの宗教の勧誘でもありません)
 メディアで拝見する姿を知らなかったら、本当に誰が書いたのか分からない。お金や美貌や権力から遠く離れて、実はあらゆる宗教やビジネスからも関係なく、淡々と「考え」が綴られています。短いけど適切で、分かりやすい文章。何より、べったり寄り添いも偉そうに上からでもない程よい距離感。なんとなく、信頼できる学校や仕事の先輩に愚痴を聞いてもらっているような気持ちになる一冊です。

実は素朴な真理

 本書の中の個人的なお気に入り格言は多々ありますが、そのどれもが実はとても素朴なことを言っているだけだったりします。でも、みんな忘れてしまう大事なこと。私のような者がすんなり理解できるのも、老若男女・貧富の差はあれ、誰の身にも心当たりのあることを思い出すから。
 基本的な理念として貫かれているのは、「自分ファースト」。しかしこれは、自分の利益や好き嫌いを優先することやわがまま放題に振舞うことではありません。恋愛においても友達関係においても、生活や生き方についても、自分で選び・考え・感じるということです。それは「自分自身の全てに自分だけが責任を持つ」ということであり、本当に難しいことです。
 本の装丁や構成のおかげでゴージャス&ビューティフルな印象になってはいますが、これを無地の半紙に筆で書かれていても納得してしまうというか、本書からはストイックな武士道を感じます。途中の読者からの人生相談的なページではくすりと笑える叶節もあります(というか、さく裂しまくっている)が、本文だけを読むとものすごい修行を積んだ僧侶や世界的な神職者のたどり着いた真理を説かれているよう
 LGBTQへの配慮もありますが、「男女は違う生き物」と淡々としていたり、一般的なロマンティックな男女の恋愛とそれにまつわるいざこざからは離れたところで「愛」を冷静に観察している恭子さん。女性、人間、という枠を軽やかに超越しているその視点は、誰か一人や一所に溺れないから到達しえたのかもしれません。
 メディアに出ている姿こそセレブリティで一般人とは程遠いですが、そのメンタルはどこまでも四苦八苦しながら生きる庶民の心を理解している気がします。個人的には、医者や教員よりもよっぽど弱者の立場や気持ちにそっと寄り添ってくれる言葉たちでした。

女子にこそ必要

 さて、本書は、初めは児童用に書き下ろされたものでした。図書館にも入っていて、何を隠そう私も最初は職場で発見したのです。なんで小中学生用に叶姉妹?と思ったのですが、読んで納得。これは、ティーンの女の子たちにこそそっと読んでおいてほしいです。
 「大人の男性の狡猾さにだまされぬように」「相手の思うがままであることは、愛ではない」等、大人になってから本当にそう思う金言や忠告が、優しく説かれているのです。小学生でも、まったく早くない。女性には誰にでも取り返しのつかないことが起こる可能性があって、悲しいことに、それは若ければ若いほどにその危険性が高いのです。
 先に述べた「自分ファースト」は、とても大切なこと。見せかけの愛情や甘く見える罠は、たくさんあります。それに騙されたり振り回されて若い心身を傷つけないために、知っておいてほしい。相手や周りの欲望や都合に流されないように、自分で考えて選択することを身につけておいてほしい。もちろん、年齢を重ねた大人の女性が傷つけられていいわけでは絶対にありませんが、まだ心身が未熟なうちに追う傷によってその後の長い人生が大きく暗い方へ転がってしまうことはとても悲しく、可能性が非常に高いことです。これは、自分自身の実感を込めて。
 本当に女性を救うのは、フェミニストでも活動家でも法や制度でもなく、「自分を大切にする」ことができるようになった女性たちそのものでしかない。私は本書を読んでそう感じました。

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