大橋義則(34)/貝塚線物語
大橋義則(34)
22:37
最寄りの駅まであと2駅。
今日は本当に疲れた。
今の若者以上に疲れたかもしれない。
塾帰りか、バックに大きなおぱんちゅうさぎのキーホルダーをつけた女子高生が車両の端のシートに座り、うたた寝している姿に目をやったあと
義則はイオンのOWNDAYSで買った眼鏡を中指で持ち上げ、窓の外を流れる家々の明かりに目を移した。
今日査定を持って行った先は2件。
宗像市の佐々木様と春日市野田様宅。
全く逆方向だ。
野田様はご自宅の売却とのことで本日が初回の面談だった。
ご主人のご帰宅に合わせて19時から21時30分ごろまでお話をした。
今日だけでは専任の確約までは至らなかったが、来週またお時間を頂戴することができた。
東区の事務所に戻り、社長に報告し、明日の賃貸の案内物件の資料を確認し、今に至る。
住宅営業に見切りをつけ、宅建士の資格を取り、先輩が始めた不動産事務所で働き始めて2年。
自分が何をやりたいのかまだ分からないでいる。
2両編成の電車の乗客は1、2、・・・6人。
ポーターのブリーフケースを隣に置き、スマホを続けた。
実家と兄弟で組んでいるLINEにスタンプで答え、
ホークスがライオンズに2−1で勝ったのを確認し、
オークスで
2番人気のチェルヴィニア
1番人気のステレンボッシュ
3番人気のライトバック
がそれぞれ、1、2、3着に入ったのを確認した。
全てが順当だ
次の駅で女子高生は無事に目を覚まし、降りた。忘れ物はない。
義則の最寄りは終着駅なので、寝過ごすこともない。
駅を降り、定期をかざし、駅員に「お疲れ様。」と声を掛け、5分歩いて自宅に着いた。
誰もいない部屋の電気をつけ、
洗面所に置いている青いガラスのコップに水を注ぐ
水道水が泡を踊らせながら満たされる。
わざとキュっと音を立て蛇口を捻り、そして、一気に飲み干す。
洗面ボウルに両手をつき、曇った鏡に映る歳の割に薄くなった自分の頭をしばらく見つめた後
着替えて夜の町内にランニングに出た。
昼は暑いほどだったが、夜風はちょうどいい。
ランニングを始めて今日でちょうど108日目。
走り続けることで何かが変わるかどうかは
分からない
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