「数学」って「国語」じゃね?(1)

 しばらく前に、数学の証明の方法を分かりやすく書いた本を読みました。書名は、読んだのに勉強の進捗が芳しくなく、申し訳ないので当面伏せておきます。そこで、証明のステップで「困ったら」(その本には「困ったら」とは書いてないのですが、ざっくり「困ったら」としておきます)、「既知の事項に立ち戻ろう」と書いてありました。既知の事項、とは、定義や、証明済みの命題 = 定理、のことです。あれ、でもこれって、国語、より具体的には、現国と同じじゃね?と思ったのでした。
 例として次の条件付き命題を挙げます(初歩的でごめんなさいごめんなさいごめんなさい)。

 n が偶数ならば, n² も偶数である.

いきなりこの命題を証明しようとするのが一般的だと思います。証明しようとして証明の道筋がピン!ときた方が数学の得意な方です。私はあなたの頭の中がどうなっているのかに興味がありますが、ひとまず今の文脈とは関係ないのでサヨウナラ。そうじゃない方はどうするでしょうか。
 とりあえず今「困っています」。さてどうすればよいのでしょうか。国語の文章だったら、困ったケースのうち「出てきた表現が分からない」という場合には、辞書を引いたり、便覧(いま「国語の便覧」って存在しますか?)で調べたり、受験用の現国重要語彙集で調べたりするのではないでしょうか。ここでの証明も同じです。語「偶数」の定義を調べるのです。
 「偶数」 ... 奇数と偶数の「偶数」でしょ、2とか4とか。日常生活にもよく現れるので、そんなに深刻に取り上げないかもしれません。しかし「偶数」の数学上の定義を知っているでしょうか?定義は次の通りです。

 偶数 =𝑑𝑒𝑓 2n, ここで n ≧ 1 の自然数.

この命題は、実はこれさえ分かれば証明終了まであと一歩なのです。論理式としては、αならばβ、はαが偽の場合(この時、論理式全体は真)がありますが、数学の条件付き命題ではαは真として進めて構いません。するとβ、すなわち

 n² も偶数である.

は、n を偶数の定義で置き換えると、共通因数として2が現れます。「あれ、これ偶数じゃね?」その通りです。
 結局、やってることは国語、特に現国と同じ、ということです。考えてみれば、数学も国語もロゴス(ロジックの語源で、ギリシャ語の「ことば」)を追究するものなので、当然と言えば当然です。

蛇足1
「文系」「理系」という分け方は嫌いですが、分かりやすさのために使うと、文系のひとが科学の説明文を読んで分からなくなることがよくありますが、その原因の多くは数式が出てきたらそれを飛ばして読んだり、専門用語をちゃんと定義に基づかないでぼんやり読んだりすることのようです。ある本に、科学の説明文を読むコツは、専門用語や数式が出てきたら敢えてゆっくり読むようにすることだ、と書いてありました。もっとも、専門用語とその数式が理解できることが前提ですが。
蛇足2
クルト・ゲーデルは母親に「『プリンキピア・マセマティカ』における決定不能な命題について」を、「はじめは小説を読むようにリラックスして読んでください」と言ったそうです。蛇足1と矛盾するようですが、これも大事です。読書百遍自から意通ず。

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