描く。

就活もやりつつ、最近はひたすらに小説を読んでいる。そして読み終わったらこうしてnoteに感想を書いている。
今回読んだのは、

砥上裕將作『線は、僕を描く』

2020年に本屋大賞で3位になり、実写映画化もされている。その映画の主演が横浜流星さんなのだが、私の母が彼の大ファンということで、家に文庫本があり、読むことにしたという顛末だ。


この作品は、一般人にはあまり馴染みのない「水墨画」をテーマとしている。主人公は高校生の時に両親を事故で亡くし、それ以来生きる意味を見失い、ただ息をしているだけ、のような状態でいた大学生・青山霜介。
たまたま行ったアルバイト先で、水墨画の巨匠・篠田湖山と出会い、水墨画の世界に飛び込む。湖山の孫の千瑛ら同門の先輩方や、大学の友人たちとの繋がり、そして水墨画を通して霜介は「命」のあり方に迫っていく。

作者の方はこれがデビュー1作目らしい。なんだか小説を書くことにあまり経歴とかそういうのって関係ないのかもしれないな、と思った。
この作品の特筆すべきところは、水墨画の表現ではないだろうか。
作者自身が水墨画家であるから、水墨画というものがどういうものか自身の経験としてわかっている。水墨画家である人が、それを表現することのできる言葉を持ち合わせた。だからこんな水墨画なんて雪舟くらいしか知らない人間にまで、この作品を通して「水墨画」というもののほんの一部だけでも知ることができたのだ。
物語というのは、自分の知らない世界に連れていってくれる。自分の知らない世界のことを知れた時のドキドキは何ものにも変え難い。

もう1つのみどころは、自分の中にこもっていた霜介がだんだんと水墨画、そして他者との交流野中で自分の生きる意味を見出していくところだろう。この物語の素晴らしい点は、主人公が水墨画に出会いその世界の中だけで完結させるのではなく、大学のサークルというまた別の世界との繋がりも持たせたところだと思う。
1つの繋がりだけではなく、複数の繋がりを持つことによって、人は自分という人間を見つめ直し、見出していく。
そういう意味で、この出会いはきっと霜介だけでなく千瑛にとっても大きな出会いだったのではないだろうか。


どうやら映画は小説と少し設定やラストが違うらしい。今度見てみようと思う。

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