誰かの大事なもの

ああ、またすぐに読んでしまった。
先日『舟を編む』を買った時に、たまたま見つけてそれが私のやりたい仕事に近いものを扱った小説だった。しかも「このミステリーがすごい!」大賞を受賞している。

南原詠作『特許やぶりの女王 弁理士・大鳳未来』

特許?弁理士?
あまり馴染みのない人も多いかもしれないが、これがまさに私のやりたい仕事。
私は今、ゼミで知的財産法を勉強している。知的財産法とは特許や意匠、商標、著作権などを保護・管理する法律。私はこの知的財産に関わる仕事がしたいと考え、就職活動を行っている。
今は特許法律事務所で働く「特許事務」という職種を考えている。
弁理士は理系の知識が必要な上、合格率が確か5パーセントとかいうものすごい難関国家資格のため、早々に諦めた。でもどうにか知的財産にかかわる仕事がしたい!と見つけたのが特許事務だった。

本作はそんな特許事務所で働く弁理士・大鳳未来が主人公。どんな依頼でも引き受け、ありとあらゆる方法を使って顧客の要望を叶える。今回はVTuberが使用している機器が特許権侵害という警告を受けた、というところから物語が始まる。この主人公、面白いのが今は「特許侵害した側を守る」という仕事をしているが、それ以前は真逆の仕事をしていたという。
それは「パテントトロール」。
パテントトロールとは、第三者から特許権を買い取り、自らは事業活動を行わないが、その特許権を行使して、事業者に多額のライセンス料や賠償金などを目当てに特許侵害訴訟を仕掛ける組織のことだ。
つまり、企業にとっては簡単に言うと「敵」である。そんな彼女がどうして特許事務所の弁理士として仕事をしているのか、その背景は描かれていないが、元パテントトロールだったからこそ、普通は考えられないような方法で「特許やぶり」をしていく。その姿は痛快だ。

このような話の場合、「侵害した側」というのは大概敵として描かれることが多い。しかし、本作は「侵害した側」をクライアントとして描き、「侵害された側」を敵として描く。それぞれに事情があり、それをどう上手くまとめるか。
後半で、主人公がクライアントに提案書を提示した時はどうなるかと思ったが、まさかあんなことをするなんて、、、、。

彼女にとって一番大事なことは「守ること」。
すなわち、知的財産とは誰かが心を込めて創った人間の叡智の結晶なのだと思う。
それに権利を認めて、産業や文化の発展に寄与しようなんて、素晴らしいじゃないか。
それに前回のnoteにも書いたけど、私は「記録する」「残す」ということに心惹かれる人間だ。
知的財産というのは、それに権利を認めてこれからも「残していくもの」だ。
これまでの歴史を見ても、技術、発明、作品など様々なものが生み出した人がいた。そしてそれを後世に残していこうとした人がいた。その積み重ねで現代の世界がある。
きっと私は「何かを生み出す側」にはなれない。でも、私はその「何かを生み出す側」の人へのリスペクトがある。そういう人たちが持つ才能や能力を存分に発揮できるように支えたい。
だから「知的財産」なのだ。

なんだか話が逸れてしまったけれど、とにかく面白い小説だった。続編もあるらしいから、買ってこようと思う。
今週、志望度の高い特許事務所の面接がある。それに備えて、頑張ろうと思う。

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