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Going Flat 〜乳房再建しないことをポジティブに選択〜


私の手術前の心境

乳がんで胸を全摘することになった人が一度は通る道。
それが、乳房を再建するかどうかの選択だ。

アメリカでは再建ありきで治療が進められると聞くし、ここ日本でも約半数の人が再建をするそうだ。

以下の記事でも書いたように、私は同時再建をしないという選択をした。
一番の理由は、手術日が1ヶ月以上も先になってしまうからだ。
あとから再建する方法もあるので、おいおい考えればいいと思った。

ちなみに夫は再建に反対だった。
追加の手術で身体に負担をかけてほしくないというのが理由だった。
私がなくなった胸を見られることに抵抗があることを伝えると、夫はそれを見ても生きていてくれてありがとう、としか思わないと言う。
それでも本人の身体だから、決定権は本人にしかないから、どうしても私が再建したいと言うなら反対はしないと言ってくれた。
なんていい夫なんだろう……!!

私は夫の意見を大いに参考にしつつ、やはり両胸あるのが望ましいという考えも拭いきれずにいた。
ひとまず洋服を着た時の違和感を解消するため、パッドを買うことに。
ネットで検索すると、布製で軽くて肌に優しいもの、シリコンで重みのあるもの、サイズ以外にも選択肢がいろいろある。

いろいろ検索しているうちに、自分の胸にそっくりの人工乳房をオーダーメイドで作れる会社をいくつか見つけた。

例えばこういうやつ ↓

胸に直接取り付けることができて、温泉やプールに入ることも可能だそうだ。
15万円とか25万円とかなかなかのお値段ではあるが、パッと見で本物の胸との違いが分からない。
もちろん生で近くで見たら分かるのだろうが、写真で遠目で見た限りはまったく分からないので、これはアリだと思った。

温泉に行くことになった場合は、以下のような入浴着を買おうと思っていたが、人工乳房もいいなぁ。

人工乳房だと入浴着なしで温泉に入れることもいいけど、たまに両胸がある(ように見える)姿を鏡で見るだけでも気分が晴れそうだなって思った。
乳頭だけ作ることもできるみたいだし、それぞれの悩みに応じてオーダーメイドで作れるなんて素晴らしい!
手術後に落ち着いたらオーダーしてみようと思い、ページを開いたままにしておいた。


手術後の心境の変化

そんなこんなで迎えた手術当日。
以下の記事で書いたように、手術直前に手術台の上でメソメソと泣きじゃくった私は、手術が終わった途端に「なくなっちゃったもんはしゃーない」と吹っ切れてしまった。

全摘するかどうか確定してなかった頃は、たとえ再発リスクが多少上がったとしても部分切除で胸を温存したいという気持ちしかなかった。
全摘することが決まってからは、右胸を1日に何度も見たり触ったりしながら、これがなくなってしまうと思うと残念で仕方なかった。

それがどうしたことか。
「もうなくなっちゃったもんは仕方ないし、そんなに気にしなくてもいいかなぁ」という気持ちが芽生えてしまったのである。

それでも実際に平らになった胸を見たらショックを受けるんじゃないかと思っていたのだが、初めて鏡を見た時の感想も「お〜、平らだ」とあっさりしたものだった。

だけどまだテープが貼ってあって傷口がちゃんと見えないから、なくなった乳頭や大きな傷口を見たらショックを受けるんじゃないかと思っていた。
やがてテープが外れ、なくなった乳頭とバサッと大きく入った傷口を実際に見てみたら、なんと

……あれ?
なんか、かっこいいかも!?

と思ってしまったのである。
ブラックジャックとか、戦ってきた勇者みたいな感じ。

片胸だけあるのは確かにちょっと変な感じもするけど、それもまた個性的と言うこともできる。
もともと胸のサイズは小さくはないが、爆乳というわけでもないので片方だけ重くてもそこまで違和感はない。

もしかして私、このままでいいんじゃないか……?
率直にそう思った。

そもそも胸がなくても生活に何の支障もない。
洋服はパッドを入れれば普通に着こなせる。
夫は胸がなくても愛情は変わらないと言ってくれている。

むしろ傷口がかっこいいとか、片胸しかないのは個性的だとか思っちゃってる始末。
もはや再建したい理由を探そうとしても、ひとつも見つからなかった。
今のままでめっちゃ満足なのに、なんでわざわざ大変な思いをして手術をしなければならないのか。
しかもお金もかかる。

なんだったら、人工乳房もいらないな。
そう思い、開いたままにしていた人口乳房のページをそっと閉じた。

私はこの胸のままで生きていこう。
片胸しかないのが、ありのままの私。
これが私。
文句あっか?笑


その後の診察にて

退院から4日後、術後最初の診察に行った。
診察のあと、担当の乳がん看護認定看護師から「少しお話をしましょう」と声をかけられた。
乳がんのエキスパートとして働くこの看護師は、病気そのもののケアだけでなく心のケアもしっかりしてくれる。

まず「入院生活はどうでしたか?」と聞かれ、ちょっと照れながら「あ、なんか結構快適でした」と答えた。
そして「傷口は見れていますか?」と聞かれ、さらに照れながら「はい、なんか全然平気で……」と答えた。
そして手術の直前に手術台の上で泣いてしまったこと、主治医に励ましてもらったこと、術後に突然吹っ切れたことなどを伝えた。

「なくなっちゃったものは仕方ないなって思って」
「そもそも胸がないといけないって思わせる社会のほうがおかしいように思えてきた」
「胸がなくても私らしく生きていけるし」
「傷口を見たらどれだけ傷つくんだろうって思ってたのに、実際に見たら全然アリだと思っちゃった」
照れる気持ちもどこかへ消え、饒舌に語りまくる。
看護師は私の前向きな心理状態をとても喜んでくれた。

そしてこれからパッドを買おうと考えていることを伝えたら「病院にサンプルがあるので、見たかったらいつでも言ってくださいね」と言われた。
私はすぐさま「見たいです!」と答えた。
手術前からネットでいろいろ調べていたが、素材や重さに種類があってどれを買ったらいいかよく分からなくなっていたのだ。

看護師はすぐにサンプルを持ってきてくれた。
まずは手術直後でも負担なく使えるウレタンパッドを試してみた。
いきなりサイズ感もバッチリで、看護師と2人で「めっちゃいい感じ!」ってキャッキャッしてた。
私の胸のサイズはD70だが、なぜかB70の人向けのMサイズがピッタリ。
D70だとLサイズになるので、購入前にこうやってサンプルを試すことができて助かった。

そして看護師は「ウレタンだとそのうち物足りなくなると思う」と言い、シリコンのパッドも試させてくれた。
こちらはずっしりと重く、実際の胸の重さと同じくらい。
確かに装着した感じはしっかりしていて満足度も高いが、ウレタンが3千円台なのに対し、こちらは3万円台となかなか高額。
店舗に来店してフィット感を試しながら商品を選んだほうがいいのことで、ひとまずウレタンを買ってから後日考えることにした。

帰宅後、サンプルで大満足だったワコールの「リマンマウレタンパッド」のMサイズをネットで注文した。

私はもともとワイヤー入りのオシャレなブラジャーではなく、ナイトブラを年中使っている。
これにパッドを入れて洋服を着たら、もう全然分からない。
最初のうちは「歩いてたらパッドがズレちゃうんじゃないか」って心配してたけど、そんなこともなく快適だ。

乳がん用の前開きブラを使うとMサイズでちょうどいいが、ナイトブラでもう片方の胸をグッと寄せて上げてみるとデコルテの部分が盛り上がるので、確かにもうワンサイズ上のほうが良さそうな気もする。
でもこのままでも特に問題はないかな。
そのうちLサイズも買ってみようかな。
もしくはシリコンの高級パッドを買う時に、フィッティングでいろいろ試してみてもいいかもしれない。


Going Flatという生き方

ネットで検索してみると「再建して良かった!」というブログやYouTuberさんはたくさん出てくるが、「再建しなくて満足!」という情報はほとんど出てこない。
再建したい人のための情報はたくさんあるのに、再建しない人に向けたポジティブな情報があまりにもない。

なので自分が書きたいと思った。
私は再建しないという選択を好き好んでしていて、片胸のままの自分にめっちゃ満足しています!!!

漫画雑誌の表紙を飾る水着姿の女性のグラビア写真。
ネットニュースの合間に差し込まれる怪しい広告。
看板に描かれるピタピタの洋服を着た豊満な胸の女の子のイラスト。
そこらじゅうに「女性のおっぱい最高!」「女性の価値はおっぱい!」っていう刷り込みが溢れている。

うるさい。我々は女である前にまず人間だ。
人間の価値はおっぱいで決まるんか?
女性の胸は、男性の目を喜ばせるためにあるのではない。
私の価値は胸がなくとも両手で数え切れないほどたくさんある。

先述のように、片胸でも生活には特に支障がない。
洋服もパッドを入れれば普通に着こなせる。

私はむしろ自分の傷口がかっこいいとすら思っている。
手術前は「傷口を見たら戦った勲章として誇りに思うようにしよう」「傷口は私ががんばって病気を乗り越えた証」だなんて思っていた。
しかし今はそういう感じでもない。
勲章だとか証だとかいう立派なものでもなく、単純に自分のありのままの姿だと感じている。
ありのままの自分でそのままかっこいいと感じている。

再建しない人の中には「自分を省みるための戒めになる」という考えを持つ人もいるようだ。
傷を見るたびに、生活を正そうと気を引き締めることができるという。
確かにそういう考え方もあるのだろうとは思う。
ただ、私は主治医から「がんになったのはあなたが原因じゃないから、ご自分を責めないでくださいね」と言われたことが本当に嬉しかった。
だから自分のことをあまり戒めたくないなと思う。
だって、生活習慣を正すことは戒めなくてもできるから。

私は生活習慣の改善をとても楽しんでやっている。
がんにいいと言われる食材を調べて買ってみたり、バランスの良い食事をあれこれ工夫して作ることは単純に楽しい。
早起きして太陽を浴びると気持ちがいいし、散歩やストレッチ程度であっても軽く身体を動かせば身も心もスッキリする。
「あすけん」で高得点を叩き出すのはゲーム感覚で楽しいし、身体に悪いお菓子やケーキをやめてから体調がすこぶるいい。とにかく快便。
だから、生活習慣を正すために自分を戒める必要などどこにもない。

魔法でちょちょいと呪文を唱えたら右胸が戻ってくるなら、そりゃあそうしたい。
だけど大変な思いをして手術をしてまで取り戻したくはない。
その時間とお金があったら、快適な生活を送るために使いたい。
胸がない自分の姿をすでに受け入れていて、特に不満もない。
無理に変える必要などどこにもない。

勲章でもなく、証でもなく、戒めでもない。
そんなに大袈裟な話ではないのだ。

これは私の個人的な考え。
再建する人のその選択を否定する気はまったくないし、再建したい気持ちも痛いほど分かる。
なくした自信を再建で取り戻せるなら、そうした方がいいと思う。
これは私の整形に対する考え方と似ているかも。
それに私の夫が言ってくれたように、その人の身体に対する決定権はその人にしかない。
立場や年齢など、さまざまな事情や環境によって考え方も変わるだろうし、それぞれの道や選択がある。
周りがどうこう言うようなことではないのだ。

ちなみに欧米では、乳房を再建しない選択のことを「Going Flat」と呼ぶらしく、再建しないことをポジティブに受け止めようという動きがあるようだ。
なかには平らになったほうの胸に美しいタトゥーを入れる人もいるし、胸を失った姿のヌード写真を公開する人もいる。

私もGoing Flatだ。
片胸しかないのが、ありのままの私の姿。
もう一度言う。

文句あっか?笑

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