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樹堂骨董店へようこそ⑩

那胡の部屋の隣の隣の部屋がイツキの部屋だ。何も教えていないのに七緒はそこで止まった。
「…ここイツキさんの部屋?」
「うん。カギかかってるから入れないよ」
「うーんたぶん…ここに閉じ込めてるんだ。おじさんすごいな…」
「閉じ込めてるの?」
「うん。何かを閉じ込めてる。扉の向こうとこちらで全然空気がちがうよ。今はわかんないけど、さっき那胡から送ってもらったイメージだとここでりんさんの気配がしたと思ったんだけどなぁ」
「そんなことまでわかるの?」
「うーん。それって那胡が送ってきたデータだよ?知らないで送ったの?」
「うん。私は見たまんままるごと送っただけだよ?」
「…え」
七緒はきょとんとしている那胡を見た。
「…」
「七緒ちゃん?」
「いや、なんでもない。それより奥の部屋はヤバいね」
「やっぱり?」
七緒の指さす行き止まりの部屋のほうからひどく冷たい空気が流れてくる。さすがにこれは那胡も気づいている。
「だって…」
七緒はその先の言葉を飲み込んだ。

…呼んでるもの。私たちを。

この声に那胡は気付いていない。七緒は呼吸を整えた。
「ね、一度下に戻ろう。私たちだけじゃ無理かも」
「…わかった」
七緒は那胡を促しながら
イツキおじさんはやっぱり普通の人間じゃない気がする…
と思った。
その時、奥の部屋の扉がぎぃぃと音を立ててゆっくり開いた。
「ひっ」
那胡は青ざめた。七緒も身構える。
「ねぇ…あなたたち。イツキはどこ?」
部屋から誰かでてきた。照明センサーは反応せず部屋の前がくらくてよく見えないがまだ子供のようだ。長く波打つ髪は金髪だった。顔はぐるぐる巻きに包帯をまかれている。白いワンピースにはうっすらと赤黒いシミがいくつもついていて血液に見えた。

「いまイツキおじさんは不在だ。部屋で待っていてほしい」
ふいに七緒が話しかけた。
「せっかく会えたのに…」
「部屋から出ない約束をおじさんとしているんじゃないの?」
「…そういえば…そうだ…戻らなくちゃ。あなたたちと遊びたかったの…」
包帯の少女は部屋に戻る前に名残惜しそうにふたりを振り返るとドアを閉めた。
あたりを覆っていた冷たい空気が薄くなった。

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