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ストイックな香り

このところ、ニオイにまつわる失敗を私は繰り返している。

前回、洗濯の生乾きで飛行機の中で危機的状況に陥ったというのに、懲りずにまたやってしまった。
現在、玄関からキッチン、部屋の方まで正露丸の匂いがディフューザーのようにしっかりと浸透している。
このニオイ、なんというかストイックでパリッとした気分になるので日々怠惰な私には悪くないかもしれない。
だがしかし、いかんせん正露丸のニオイなので服用したことがあるひとは、このニオイを嗅いだら正体にバッチリ気が付いてしまうだろう。
「お腹こわしてるの?」
と思われるのも気恥ずかしい。
今のところ客が来る予定はないんだけど。

事の発端は、薬を入れている引き出しの奥を見た時だった。正露丸がでてきて、そういえば最近、使っていないなぁと思いながら瓶をぐるっと一周眺めたら使用期限が二年前に切れていることがわかった。これはうっかり飲んだらどういうことになるかわからない…と思ったので捨てることにしたのだ。
私の居住する地域では「燃えるゴミ」と「ビンのゴミ」は別の日に収集が来る。何も考えずに私は燃えるゴミ箱にざーっとビンの中実を捨て、ビンはべつのゴミ箱へ入れた。

異変に気付いたのは買い物から帰宅した時だった。
部屋中が正露丸のニオイで満たされていた。
「んんんん?これは…」
玄関もキッチンもトイレも部屋も…きっちり正露丸のニオイがする。
「こ…これは…」
さすがの私もあせった。すぐにゴミ箱にいれた正露丸のことを思い出した。正露丸のニオイはわりと強烈なのだ。部屋全体を包む非常に強力なストイックなニオイ。しかし…もう今さらゴミ箱をひっくり返して一粒ずつ拾うのも面倒だ。
「仕方ない、次のゴミ収集の日までこのままでいよう」
私は耐えることを選択した。

こうして…正露丸のニオイに包まれた生活を三日ほど続けている。ちょっとだけニオイが薄くなったかもしれない。私が慣れてしまったのか、匂いが薄れたのか…
明日はごみ収集の日なので、こんな生活も明日の朝までだ。
意外とキライじゃなかった。ストイックなニオイが精神的にしゃきっとさせてくれてよかった。

数日のあいだお世話になりました。ありがとう正露丸。


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