出会い
ワタシとオヤッサン(雇い主)との出会い。
それは3年弱前。
当時、ブラック企業に勤めていたワタシ。
広告関係の営業マンとして働いていたワタシ。
毎日昼も夜もなく睡眠時間2時間くらいのワタシ。
突然会社が倒産し、無職になったワタシ。
突然の事にボーゼンとしつつも、束の間のニート生活を楽しむワタシ。
そんな日々が続いたワタシの元に電話がかかってきた。
大学時代の友人、Kである。
電話に出ると、なんとそれは仕事の誘いであった。
どこからかワタシが無職になった噂を聞きつけて電話をかけてきてくれたのだと。
そして、その仕事とは…。
「ウチの親父がさ、庭師やってて。オレも今ちょっとだけ手伝ってんだけど、よかったら来てくんないかなー?」
というもの。
ワタシは即答で
「わかった!いく!」
と答えた。
その時はまさかその後三年弱もそのまま庭師をやるとも勿論思っておらず、次の就職先が決まるまでのバイトのつもりで即答したのだ。
そして、運命の日…。
現場に到着し、Kと3年ぶりに再会し軽くそれぞれの近況を話し終えた頃…。
ヤツが現れた…。
そう、オヤッサンだ。
オヤッサン、つまり友人Kの親父さんだ。
白髪混じりでよく日に焼けた肌にヒゲを蓄えた、
長州力にちょっと似た顔立ちのオッサンだった。
正直、Kと顔は全く似ていない。
だが喋ると声がソックリだった。
ワタシが「はじめまして、◯◯です!よろしくお願いします!」と挨拶すると
「あ、あーうん!はい!あ、それじゃあこの木切って!」
…え?挨拶そんだけ?
いや、この木切ってってワタシなんもわかんねぇんだけど…。
切るって何よ。え?どうやるとかもなく…え?あっち行っちゃったよ。…うわ、もう自分の仕事し始めちゃってるよ。。。
ボーゼンとしていると流石に見兼ねたKがツッコミを入れ、親父を引き戻し指示のやり直しを要求。
「あぁ、ごめんごめん。Kに家の手伝いで庭木の剪定とかしてるって聞いてたからイケるかと思って…」
いや絶対イケないだろ‼︎
確かにワタシは実家の道路沿いの生垣を切ったりとかしてはいたが、これは実家の庭木ではなく他人様の庭木で、しかも仕事としてアンタが受けたものじゃないのか?!
なんだこのテキトーな感じ。
ゆる過ぎんだろ、このオッサン。
それが第一印象だった。
あまりの返しに苦笑いしか返す事出来ないワタシを置き去りにして、ゆる〜い曖昧な指示を出してくるオヤッサンとそのダメな指示を的確にダメ出ししながら補足説明してくれるKを見ながらワタシは思った。
「若手芸人がよくやる天使と悪魔のコントみたいだな…。いや、やっぱ違うか」と。
Kから事前に電話で"汚れても良くて動きやすい格好で手袋だけ持ってきてくれたらいいよ"と言われていたワタシなので当然ハサミやノコギリを持っていない。
その事を伝えるとまた思い出した様な素振りを見せ、自分の予備の剪定バサミとノコギリを貸してくれたオヤッサン。
「じゃあちょっとオレが切ってみるからちょっと見てて。こうして…こうして……うん、はいじゃあやってみて?」
「…うん、そうそう!そんな感じ!うん、じゃあそんな感じで全体を切っていけばまあ形になるから!またわかんない事あったら聞いてね!」
…ワタシ、初日からハサミ握っていいのかな?
なんかイメージしてた庭師と全然違うんだけど…。
職人の世界ってイメージしてたから少なくとも初日にハサミ握らせてもらって一本の木の剪定を任されるのは、マジで早すぎると思うんだけどな…。
そんな事を思いながら言われた通り切り進める。
…うん、全然自信ないけどまあ言われた通りやりました。さあ、どうですか?オヤッサン!オヤッサンの教えの通りやりましたよ!
「…うん、いいね!あとここをこうして…あとここ!もう少しこうね!!あとねここもこうして……ここと……ここ!!ここね……こう、こうして………」
…うん、手直しばっかでワタシの手柄ゼロよ?
実践型過ぎるというか、高卒ルーキーを開幕からずっとスタメンで使うタイプ過ぎるというか。ワタシとしてはしばらく二軍でじっくり育てて欲しかったというか。
その後もフル回転でワタシに剪定させては手直しを繰り返してその日を終えた。
余程の人手不足なのか、丁度良い手駒を見つけたと思ったのか知らないが、その日のうちにぜひ今後も来て欲しいと頼まれたワタシ。
友人のKからも頼まれたこともあるし、少しいい加減な印象は受けるものの人当たりのいいオッチャンでホントに困っていそうだったので快諾し今後も手伝いをする事にしたワタシ。
その日の帰り道に自分の剪定バサミとノコギリを買いに行き、ふと思う。
「…あれ?ちゃんと自己紹介されてなくねぇか…?」
テキトーオジサン伝説はこうして幕を開けたのであった…。
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