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死者は噓をつかない (文春文庫 キ 2ー71) 文庫 スティーヴン・キング (著), 土屋 晃 (翻訳)


$解説
【スティーヴン・キング作家デビュー50周年記念刊行、第3弾!】

この小説は、「ぼく」ことジェイミーの回想記であり、そしてこれはホラーストーリーだ。
そう、だってぼくには死者が見える――。

「死人の霊が見える」という、古典的とさえ言える設定。
それがキング流に調理されると、他の何者とも違うユニークな物語が立ち上がる。

ジェイミー少年は、ものごころついた頃から死者が見えていた。死者の世界にはいくつかの決まりがあるようだった。
死者は死ぬとすぐ、死を迎えた場所の近くに、死んだときの姿で現れる。
長くても数日で、だんだん薄れていって消える。
普通の生者にはぼんやり存在が感知される程度だが、ジェイミーだけは会話を交わせる。
そして、死者は嘘をつけない。

文芸エージェントの母。若年性認知症を発症した伯父。
母の親友のタフな女性刑事。同じアパートの引退した名誉教授。
母のクライアントの売れっ子作家。警察をあざ笑う連続爆弾魔……。

ジェイミーはその能力ゆえに周囲の人々の思惑にたびたび振り回され、奇妙な目にあいながら、どうにか成長していく。
しかしある事件をきっかけに、いよいよ奇怪な事象が彼本人の身に降りかかってくるのだった――。

少年の成長物語を書かせれば天下一品、そして言わずもがなのホラーの帝王が、両者を組み合わせた「青春ホラーストーリー」。これが面白くないはずがない。
最後の最後まで驚きを仕込んできて読者を油断させてくれず、自身の代表作のある「ネタ」をからめてくるファンサービスも怠りなし。
どこを切ってもキングという円熟の筆で心おきなく楽しませてくれる、記念刊行にふさわしい逸品!

$読者レビューより引用・編集
この本の紹介を読んで「アレ?」と思っていた。
死者を見ることができ、話もできる少年、という設定はあの『シャイニング』を思わせるし、特別に酷い死に方をした死者以外は普通の生きている人と見分けがつかない、当然話をしても普通に知り合いと話すのと変わらない、というのはあの有名映画と似すぎていると感じたからだ。
実際読んでみても、さすがに当代最高のエンタテインメント作家だけに面白い「読ませる」作品なのだが、その能力を使って連続爆破魔と対決するというのも予想通りだし、その過程で遭遇することになる "死の光" についてもページ数が少ないせいか描写があっさりしていると思っていたのだが・・・
事件解決後の展開を読んで「なるほどそうか」と納得した。
おそらくキングがこの小説で本当に書きたかったのはこの後日譚のような部分なのだ。
キングのファンなら彼の父親が失踪しており、母親の女手ひとつで育ってられた経緯はご存じだろう。だからキングはある種のあこがれをこめて「父と子」の物語を書き続けてきた。
この小説はその「父と子の物語」の陰画、子供に何も伝えることなく消えてしまい、そのくせ遺伝子の形で資質を子供に一方的に押し付けた父親に対する恐怖を描いた作品。
子供は父親を選ぶことはできないし、その遺伝形質が仮に病原になるようなものでも拒むこともできない。その不条理を納得できるのは父親が我が子に自らの意志できちんと接し、「この人が自分の父親なのだ。だからこの人がくれた人生をこの人が伝えてくれた資質で生きていくのだ。」ということを受け入れさせてくれた時だけだ。
ラストで「ある人物」から自分がお前の父親だ、と告げられた時、ジェイミー少年は何も言わずに背中を向け立ち去る。
自分の中にある能力について尋ねることも、恨み言のひとつも言うことなく。
その人物がカミングアウトしたのは自らの意志ではなく、ただ尋ねられたことについて「死者は嘘をつかない」からに過ぎないのだから。
この作品中、キングはしつこいぐらいに「これはホラーストーリーなのだ」と繰り返している。
真の恐怖は爆弾魔セリオーでも死の光でもなく、父との断絶によりキング自身の分身ジェイミー少年が抱え込みことになったもの・・・・この小説はエンタメ小説の形をとった、キングの極めて私的な恐怖を語った私小説なのだと思う。


登録情報

  • 出版社 ‏ : ‎ 文藝春秋 (2024/6/5)

  • 発売日 ‏ : ‎ 2024/6/5

  • 言語 ‏ : ‎ 日本語

  • 文庫 ‏ : ‎ 352ページ

  • ISBN-10 ‏ : ‎ 4167922401

  • ISBN-13 ‏ : ‎ 978-4167922405

  • 寸法 ‏ : ‎ 10.5 x 1.3 x 15.2 cm

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