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日本は原子力潜水艦を作れる?保有すべき?

原子力潜水艦とは

現代海軍におけるキーマン、潜水艦。

潜水艦には2種類あり、一つが原子力潜水艦で、もう一つがディーゼル式の通常型潜水艦。

原子力潜水艦とは、動力に原子炉を使用する潜水艦です。

原子炉から得た熱で、高温高圧の蒸気を作って、蒸気タービンを回し、スクリューを回転させて推進力を得る。

そして、蒸気の一部は、発電用タービンに導いて、電気を起こします。

その電気で、海水を電気分解して酸素を作り、海水を淡水化し、ソナーなど、各種電子機器を作動させる。

これが、原子力潜水艦の簡単な仕組みです。

現在、世界で原子力潜水艦を自前で保有しているのは、アメリカ、ロシア、中国、イギリス、フランス、インドの6カ国。

この原子力潜水艦には、どんな特徴・能力があるのでしょうか?

原子力潜水艦の能力


潜水艦は読んで字のごとく、水の中に潜っていてなんぼのものです。

なぜなら、有事の際に、敵から居場所が分かってしまうと、真っ先に攻撃されてしまうからです。

しかし、潜水艦の中には人間が乗っているので、定期的に海面に浮上し、酸素を取り入れなければなりません。

この点で、ディーゼル式の通常型潜水艦は、艦内を換気したり、バッテリーを充電するために、たびたび浮上する必要があります。

一方、原子力潜水艦の最も大きな特徴は、長期間の連続潜航ができるという点。

原子力潜水艦のエネルギー源は、その膨大な核燃料。

一般的な潜水艦は、ディーゼル機関などを作動させて、バッテリーに充電し、モーターでスクリューを回しています。

そうすると、最大でも2週間しか潜れません。

しかし、原子力潜水艦は、船を動かす動力を、原子力から得ているので、フルパワーで使っても、燃料を気にする必要はありません。

ゆえに、長期にわたって潜ることができて、相手にどこにいるのか分からない恐怖を与えることができます。

また原子力潜水艦は、海水を蒸発させて、真水を作りだすことができ、それを電気分解することによって、酸素も作り出せます。

原子力潜水艦の電力は、小さな発電所と同じ規模といわれており、水と電気が永遠に使える状態。

そのため、通常型潜水艦よりも、乗員たちは快適な環境で、長期間生活をすることができるのです。

しかし、原子力潜水艦にも欠点はあります。

それは、騒音問題です。

原子力潜水艦は、エンジンを完全に停止することができません。

その理由は、原子力発電所と同じく、全てを止めてしまうと、熱が発生して、原子炉が溶けてしまう可能性があるからです。

このため、騒音が発生し、通常型潜水艦と比べて、敵に見つかりやすいというデメリットがあります。

世界初の原子力潜水艦は、1954年にアメリカ・リッコーヴァーの下で開発された、ノーチラス。

当初、原子力潜水艦は、魚雷を用いた水上艦への攻撃を、主な任務としていました。

しかし、水中性能の向上に伴い、潜水艦を水上・空中から探知することが、困難になり、潜水艦を、潜水艦で狩る水中戦の重要度が、増してきました。

こうして、遅くとも1960年代末以降には潜水艦に対する最も有効な兵器は潜水艦であるとの認識が一般化した。

そして、1959年、核戦略の一端を担う、海中ミサイル基地とでも言うべき、弾道ミサイル潜水艦の原子力版・攻撃型原子力潜水艦、ジョージ・ワシントンが就役します。

アメリカに続き、先ほど紹介した国々は、攻撃型原子力潜水艦を配備しました。

その後、対地攻撃や、対艦攻撃用の巡航ミサイルを装備した型も造られ、このような艦種は、巡航ミサイル原子力潜水艦と呼ばれています。

日本は原子力潜水艦を保有している?

結論から言うと、日本は2024年現在、原子力潜水艦を保有していません。
しかし、日本の原子力潜水艦保有については、これまでも何度も議論がされてきました。

1958年、帝国海軍時代から、通常型潜水艦の建造実績があった川崎重工業は、原子力潜水艦を建造した場合の、コスト・必要な設備などについて、81ページのレポートをまとめました。

このレポートによると、当時の試算では、後の攻撃型原子力潜水艦に相当する、艦1隻を建造するためには、「通常型潜水艦10隻分の資金が必要だ」とされました。

時は1986年、海上自衛隊は、原子力潜水艦の導入について、具体的な検討に入っていました。

原子力潜水艦導入には、アメリカの同意が必要なので、アメリカ海軍にも非公式に打診。

昭和66年以降の、中期防衛力整備計画に組み込もうとしました。

そこでは、核ミサイルや、核魚雷搭載型ではなく、非核の攻撃型原子力潜水艦を、検討対象としていました。

当時、日本周辺にいる外国潜水艦の大半が、原子力潜水艦という状況の中、海上自衛隊では「作戦行動をとるには、通常型ではもう限界」という声が強まっていたのです。

しかし、アメリカ海軍側は、海上自衛隊に対して、具体的な反応を示しませんでした。

国内では、「むつ」の問題もあり、国内での原潜開発は、難しい状況にありました。

「むつ」とは1969年に進水した、日本初の原子力船のこと。

日本は、「むつ」で自前の小型軽水炉を実証しましたが、放射線漏れを起こし、廃棄されてしまいました。

そこで、海上自衛隊は、原子力推進の部分だけを、外国から購入し、国内の潜水艦に組み入れる方法も、検討していました。

しかし、防衛庁内局や国会で反対され、原潜導入計画は中止となります。

さらに時は経ち2004年、防衛計画の策定時に、防衛庁の「防衛力の在り方検討会議」において、中国が潜水艦の近代化を、急速に進めていることに対抗するため、海上自衛隊の原子力潜水艦保有について、議論されます。

検討対象となったのは、弾道ミサイルを搭載して、核抑止を担う「戦略型原子力潜水艦」ではなく、艦船攻撃用の「攻撃型原子力潜水艦」。

ここでは、原子力の平和利用を定めた、原子力基本法との法的な整合性、日本独自で、潜水艦用の原子炉が開発できるか、といった技術論に加え、運用面にも踏み込んだ議論が行われました。

しかし、原子力潜水艦を保有した場合の、海上自衛隊の警戒監視任務に与える影響や、乗務員、訓練方法などを総合的に検討した結果、原子力潜水艦の導入は、時期尚早と判断されました。

その後にも、自民党の石破茂や、国民民主党の玉木雄一郎代表が、原子力潜水艦を保有すべきだという意見を発表していますが、日本は未だに、保有するに至っていません。

世界最高の潜水艦技術

日本は、原子力潜水艦は保有していないものの、通常型潜水艦の技術は、世界一だと言われています。

日本は、三菱重工業や川崎重工業を中心に、1904年以来、110年以上に渡って、潜水艦技術を蓄積してきました。

日本の潜水艦は、「非大気依存推進機関」を搭載していて、作戦時には、エンジン駆動で蓄えた電気で航行できるので、ほとんど音を発しません。

また、リチウム蓄電池の性能向上で、静かに航行できる時間も大幅に伸びています。

航行可能深度は、500メートルとされていて、アメリカの原子力潜水艦を除けば、世界のほとんどの潜水艦が、400メートル以下を限界とするので、これらの真下を航行できます。

また、海上自衛隊の潜水艦救難艦は、深度1000メートルでの救助活動が可能な、深海救難艇を搭載していたり、乗組員は450メートルの深さで、潜水作業した記録を持っています。

アメリカやイギリスの原子力潜水艦は、艦内で酸素を生成でき、航続距離は非常に長いですが、蒸気でタービンを回し続けるので、静粛性では日本製に劣ります。

探知能力については、潜水艦配備の装備と、艦外の味方からの情報を、高性能コンピューターで、素早く統合・管理できます。

水中で敵を探るソナーは、潜水者の酸素ボンベを使った、呼吸音のレベルまで、見分ける能力があり、レーダーは潜水艦配備と、衛星・対潜哨戒機の、双方の監視をコンピューターで統合運用します。

しかも、これにアメリカ側の、レーダー網からの情報が加わり、日本海側全般、太平洋側では、中国が第2列島線とする範囲、サイパンやパラオ、グアムまでを含む範囲を探ることも可能。

攻撃能力については、魚雷の推進速度と距離では、終戦直後の一時期を除いて、第2次世界大戦時から、世界最高クラスを維持し続けています。

また、最新のたいげい型や、じんげい型は、潜水艦上部から、海上に向けて打ち上げるミサイルも搭載可能で、魚雷と併せれば、水中と空中の双方から攻撃できます。

このように、日本の潜水艦は、長い年月をかけて、世界トップクラスの技術力・能力を磨き上げてきました。

では、原子力潜水艦の建造となれば、話は変わるのでしょうか?

日本は原子力潜水艦を作れる?

大方の見解としては、「日本が本当に望むのであれば、日本には原子力潜水艦を建造するための、資金も技能も技術もある」とのこと。

ご存知の通り、日本は商業用の原子力産業を有しています。

これは人材を訓練したり、インフラを整備したり、適切な規制や、安全システムを確保したりするのに利用できます。

また、先ほども紹介したように、日本は最新技術で、世界で最も近代的な潜水艦を設計したり、建造したりできる、優れた造船業界もあります。

それでも日本は、アメリカの支援を必要とするかもしれませんが、優れた設計者とエンジニアたちが、大いに利用できる産業基盤も整っています。

大型潜水艦を建造するための施設、大きな造船所もあります。

さらに、日本は国産原子力潜水艦を設計し、建造する能力を持つほか、その気になれば、原子力潜水艦向けの、原子炉も国産でできてしまいます。

世界では、日本の技術をさらに進歩させれば、原子力潜水艦特有の騒音を、静粛化できるかもしれない、と言われているのです。

また、日本の緻密な製造技術があれば、アメリカ製の小型原子炉以上に、安全性の高いものを造れるかもしれません。

現在でも、世界で使われている商業用原子炉は、ほとんどが大型軽水炉。

この炉型は、電力線網で広範囲に送電するという、集中型電力システムで低コストを実現してきました。

しかし、福島の原発事故がきっかけで、安全対策の強化で建設コストが上昇、新設では太陽光風力発電に対して、競争力を喪失しつつあります。

そこで注目されているのが、燃料の補充が長期にわたって不要な、小型軽水炉。

日本は、その技術力を持って、むつで失敗した小型軽水炉に、再び着手することで、非常に高性能な原子力潜水艦を建造できる可能性があるのです。

つまり、日本は世界のどの国よりも、原子力潜水艦を建造するには、良い位置にいるということ。

日本は原子力潜水艦を保有すべき?

では、日本は原子力潜水艦を保有すべきなのでしょうか?

専門家によって、意見は分かれています。
原子力潜水艦を保有すべきと考える人は、中国や北朝鮮との緊張関係を念頭に置いています。

日本の持つ、ディーゼルとリチウムイオン電池の潜水艦は、静粛性に優れていますが、たびたび浮上する必要があり、秘匿性能と航続距離に課題があります。

さらに、2020年には、北朝鮮のミサイルを撃ち落とす、新型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」計画が放棄されました。

敵国領内での、基地攻撃の可否が議論されていますが、そもそも攻撃を受けた場合、通常型巡航ミサイルでの反撃は、攻撃ではなく、防御だというもの。

非核巡航ミサイルを装備した、原子力潜水艦による敵の核攻撃抑止も、アメリカの核拡大抑止戦略の補完として、検討されるべきという意見があります。

一方、日本には原子力潜水艦は必要ない、との意見もあります。

日本の安全保障上の主な脅威は、中国と北朝鮮で、どちらも地理的に極めて近いですよね。

海上自衛隊の、攻撃型潜水艦は、日本海と黄海、東シナ海、南シナ海、さらには西太平洋、インド太平洋海域で活動するための、優れた基盤となっています。

新型のリチウムイオン電池と、長時間潜航可能な、非大気依存推進機関を使うことで、日本の潜水艦は、海洋上の重要水路、さらには中国や北朝鮮の海軍基地や、港の外側に、長期間にわたって居続けることができるのです。

海上自衛隊は、日本近海を守るための防御的な組織で、アメリカ海軍のような、地域を越えて、力を行使する遠征海軍ではありません。

海上自衛隊は、無人システムやミサイルなどを、日本本土から発射できて、高額な原子力潜水艦に、それらを搭載する必要はありません。

なので、多額の費用がかかる、原子力潜水艦を開発することで、日本の陸海空の自衛隊が、すでに持っている能力を、さらに増強できるとは考えにくいのです。

また、日本の防衛の基本理念が「専守防衛」というのも、原子力潜水艦を持たない理由になります。

つまりこれは、敵から武力攻撃を受けたときに、初めて防衛力を行使するというもの。

日本の近海に潜むのがメインで、日本から遠く離れた海での、潜水艦の運用は、考慮されていないので、原子力潜水艦を持つ意味はないとされています。

日本の場合、原子力潜水艦よりも、ディーゼル式の通常型潜水艦のほうが、圧倒的に運用しやすいと考えられているのが、現在。

あなたは、日本は原子力潜水艦を保有すべきだと思いますか?

今回は、日本の原子力潜水艦保有について、解説してきました。

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