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大阪市港湾局は、死んだ鯨の処理作業委託完了の2ヶ月後に随意契約を締結しており、発注手順が出鱈目です。朝日新聞の報道ポイントもずれています。

令和6年2月19日付の朝日新聞デジタル記事「大阪市、クジラ処理費を調査 試算2倍超の8千万円で契約、課長進言」によれば、大阪湾の淀川河口近くで昨年1月に見つかり、その後死んだ鯨の処理費(約8千万円)について、大阪市は2月19日、大阪市港湾局の試算金額(3774万円)の積算過程などが適正だったか調査を始めたと報道されています。また、前記の記事によれば、昨年1月13日に鯨が死んでいるのを確認した大阪市港湾局は、随意契約を締結しないまま、大阪市内の海運業者に鯨の海洋投棄処理作業を委託し、昨年1月19日に作業は完了しました。その後、昨年1月下旬に業者は、請求する経費として8625万円を大阪市港湾局に提示しています。これに対して、昨年3月上旬に大阪市港湾局は、処理に要した経費を積算により3774万円と試算しています。双方の金額に大きな差があったことから、価格交渉の結果、昨年3月下旬に大阪市港湾局は、契約金額を8019万円とする随意契約を業者と締結したとの旨が報道されています。
さて、前記の記事では、実際の契約金額(8019万円)が、大阪市港湾局の積算による試算額(3774万円)の2倍超であったことを最も問題視していますが、問題の本質の捉え方がずれてしまっています。問題の本質は、大阪市港湾局が、死んだ鯨の処理作業を委託し完了した2ヶ月後に契約金額を確定して随意契約を締結したことであり、発注手順が全くの出鱈目であったということです。
ここで、死んだ鯨の海洋投棄処理作業に要する経費を積算により緻密かつ正確に求めようとしても、このような作業にそのまま適用できる積算基準は何処にも存在しません。また、死んだ鯨の海洋投棄処理作業を専門とする海運業者も、何処にも存在しません。それゆえ、死んだ鯨の海洋投棄処理作業に要する経費を積算により算出するには、類似の海洋投棄作業に要する経費の内訳を調べて、そこからの類推により積算計上する他には無いところです。このため、死んだ鯨の海洋投棄処理作業に実際に要した経費を緻密な積算により算出しようとすること自体に、元々かなりの無理があります。大阪市港湾局では、このような無理をおして積算した結果、試算額が業者見積もり金額と大きく乖離してしまったと言えますし、このような積算に2ヶ月もの期間を費やしてしまったと言えます。
次に、死んだ鯨を速やかに海洋投棄処理する必要があったため、入札手続きは実施せず、随意契約の手続きで進めたことについてですが、このような場合に随意契約とすることができる法令上の根拠は、地方自治法施行令第百六十七条の二(随意契約)の第一項第五号の規定「緊急の必要により競争入札に付することができないとき。」です。この規定に基づく随意契約であっても、契約の締結に先立ち、予定価格を策定する必要があります。ところが、大阪市港湾局では、積算による予定価格の策定(長期間を要します。)に強く拘ったため、随意契約が締結できないままに死んだ鯨の処理作業を委託せざるを得なくなり、作業が完了した2ヶ月後に契約金額を確定して随意契約を締結するといった、全く出鱈目な発注結果を招いています。
ちなみに、大阪市港湾局全体の発注については、設計・施工分離発注方式による施工の発注が大半を占めており、施工発注に先立つ予定価格は全て、積算基準に基づく緻密な積算により策定しています。このことから大阪市港湾局は、死んだ鯨の海洋投棄処理作業委託に係る予定価格についても、長期間を要する緻密な積算に依らなければならないと盲信し、急を要する海洋投棄処理作業を委託する随意契約の締結を後回しにしてしまったと言えます。
それゆえ、急を要する場合の随意契約締結に先立つ予定価格については、大阪市港湾局は、積算による策定への拘りを捨てて、業者見積もりの徴収・査定により策定する術を修得すべきです。具体的には、次の手順となります。
1 見積書の提出を依頼する業者の選定
これまでの実績等を踏まえて、複数の業者を見積書提出依頼先候補としてリストアップし、候補とした理由を明記した書面による決裁を経て、見積書提出依頼先業者を選定する。
2 選定した業者への見積書提出依頼書の送付
上記1で選定した複数の業者に対して、委託内容を簡潔明瞭に示した制定済みの発注書を添付した見積書提出依頼書を送付し、書面に記載した期日までの見積書の提出を依頼する。
3 徴収した見積書の査定による予定価格の策定
業者から徴収した見積書の査定により予定価格を策定する。この際、金額の査定に先立ち、見積書の日付、有効期限、宛先、件名、見積責任者の氏名・捺印を確認した上で、発注書で示した委託内容について、見積書に計上漏れが無いかを確認することが肝要である。


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