万博海外パビリオン建設が凄く遅れている主因は、海外のパビリオン建設発注関係者と国内の建設業者との間で、建設工事契約についての認識が食い違っていることです。
大阪・関西万博の2025年4月の開幕に向けて、現時点で最も懸念されることは、海外各国が独自に建設する、万博の「華」とも言うべき海外パビリオンの建設が大幅に遅れており、その多くが開幕までに出来上がらない恐れがあることです。
海外各国が独自に建設する51館のパビリオンの内、現時点で着工したのは数館のみであり、20館では建設業者が未定(建設工事契約が未締結)のままです。建設工事契約が締結できた31館では、国内の大手ゼネコンが直接請け負ったケースはありません。万博協会では、昨年末までに建設業者が決まらない海外パビリオンは建設が開幕までに間に合わない恐れがあるとして、箱型のプレハブ方式パビリオンであるタイプXの建設資材を24館分既に発注済みです。しかし、海外パビリオンは、いずれもそれぞれの国内で建築デザインを選りすぐったものであるため、独自建設を断念してタイプXに乗り換える国は少なく、3ヶ国に留まったままです。これでは、2025年4月の万博開幕時に、万博の「華」とも言うべき海外パビリオンの多くが出来上がっていないという悪夢が現実となりかねません。
他方、国内パビリオンでは、昨年の8月頃までに全ての建設工事契約がゼネコン等の国内大手建設業者と締結済みです。
海外パビリオンと国内パビリオンでは、建設工事契約締結の進捗状況に雲泥の差があります。その原因を調べてみたところ、外国政府のパビリオン建設発注関係者とゼネコン等国内建設業者との間で、建設工事契約についての認識が全くかけ離れているのです。
我が国では「設計・施工分離の原則」に基づく設計・施工分離発注方式(つまり、この設計図面のとおりに造ってくれといった、他国に類を見ない我が国独自の発注方式)が常識であり、工事請負契約書の雛型である「公共工事標準請負契約約款」と「民間建設工事標準請負契約約款」のいずれも、設計・施工分離発注方式を前提としています。
ところが、海外ではデザインビルド方式(つまり、別途選定した建築デザインに基づいて設計と施工を一括発注する方式であり、このようなものを造ってくれといった、グローバルスタンダードな発注方式)が常識です。このため、外国政府のパビリオン建設発注関係者には、設計・施工分離発注方式の概念を理解することは難しく、ましてや、我が国の標準的な工事請負契約書を理解して用いることは不可能です。
経産省と万博協会は、昨年の8月以降、経産省や財務省の現役幹部職員等を万博協会に異動させて対外折衝体制を強化し、また、外国政府と国内建設業者を引き合わせる会合を複数回開催するなど、海外パビリオンの建設工事契約締結の促進を「組織対応」により図ってきました。しかし、このような「組織対応」が効を奏して外国政府が国内建設業者と建設工事契約を直接締結した事例は、残念ながら殆ど見られません。
ところで、契約の締結については、民法に則り、発注者と受注者が対等の立場で信義誠実の原則に基づき、「誰が誰に」、「何を」、「いつまでに」、「いくらで」、「どうするか」の5点について、発注者と受注者の双方が十分に納得した上で契約書に署名捺印すればよいことです。そこで、契約の当事者である発注者と受注者を「組織対応」で支えるべきことは、前記の5点の内の、「何を」、「いつまでに」、「どうするか」の3点についての合意内容が齟齬無く明確なものとなるように助言すること、つまり、契約書に編綴される発注書の簡潔明瞭かつ必要十分な書き方について、外国政府のパビリオン建設発注関係者に助言することです。しかし、残念なことに、このような助言はこれまで全くなされませんでした。
それゆえ、万博の「華」とも言うべき海外パビリオンの全てが万博開幕までに咲き揃う夢を現実とするには、大阪・関西万博の開幕を1年程度延期した上で、前記の助言を万博協会の「組織対応」で強力に実施していくことにより、海外パビリオンの建設工事契約を国内の大手ゼネコン等が直接請け負う道を開いていく他には無いように思われます。
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