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PPP/PFIによる自治体の公共事業では、性能発注方式の取り組み方が欠かせません。しかし、どこの自治体でも仕様発注方式の考え方から抜け出せないため、1者応札が頻発する事態を招いてVFM(Value for Money)の向上を阻害しています。

自治体の公共事業では、包括的民間委託による事業や公設民営・民設民営等の民営化を主眼とする事業、つまり、性能発注方式の取り組み方が必須となるPPP/PFIによる事業の比率が増加しています。事業をPPP/PFIの手法で実施する主目的は、仕様発注方式(設計・施工分離発注方式)の手法による従前からの公設公営事業と較べて、VFM(Value for Money : 費用対効果とほぼ同義)を向上させるところにあります。これには、PPP/PFIによる事業の受託業者を選定する際に、価格と技術の両面での競争原理を確実に働かせることが欠かせません。
 
ところが、自治体でのPPP/PFIによる公共事業では、総合評価落札方式一般競争入札により受託業者を選定する際に、1者応札に終わってしまう事態が頻発しています。
 
例えば、全国のごみ処理施設(清掃工場)整備運営事業(全てが公設民営または民設民営の手法による事業)について、平成26年から令和4年までの間に入札等の結果がネット検索により判明した30件(具体的なリストは下記に添付)について調べたところ、全体の4割に当たる12件が1者応札でした。共通する原因は、性能発注方式の取り組み方が極めて歪であり、競争原理を阻害する受託業者選定プロセスとなっていたことです。具体的には、以下記載のとおりです。
 
共通する原因の根源として、公共事業の発注に先立ち策定する予定価格には仕様発注方式の考え方が色濃く反映して、確定した詳細仕様に基づく緻密な積算に依るものでなければ法令上の規定に反する、といった勘違いが全国の自治体に蔓延しています。このような勘違いは、性能発注方式の適切な活用を阻害して大きな弊害を生じます。ごみ処理施設(清掃工場)整備運営事業では、大半の自治体が、積算による予定価格の策定ができるように詳細仕様を規定した「とんでもない要求水準書」を作成して用いています。その結果として、「とんでもない要求水準書」には特定の業者しか対応できなくなり、1者応札の事態を招いてしまっているのです。
 
また、このような「とんでもない要求水準書」の記載方法は、どこの自治体でも極めて類似しているため、「とんでもない要求水準書」であることが自治体では分からないままに、「モデルとなる要求水準書」として全国の自治体に流布していることが伺えます。
 
ところで、国や自治体の契約に関する法令は、会計法、予算決算及び会計令、地方自治法、地方自治法施行令の4つです。この中で、予定価格の策定方法の規定は予算決算及び会計令のみにあり、他の3つの法令では「予定価格の制限の範囲内で」とする運用方法の規定のみです。予算決算及び会計令では、第七十九条で(予定価格の作成)について、第八十条で(予定価格の決定方法)について規定されていますが、要するに「予定価格は、仕様書、設計書等によって、適正に定めなければならない。」ということです。また、4つの法令のどこにも「積算」という文言を見出すことはできません。このことから、全国の自治体に蔓延している「予定価格は、確定した詳細仕様に基づく緻密な積算に依るものでなければ法令上の規定に反する」といった認識は、勘違いも甚だしいと言えます。
 
それゆえ、上記の問題を解決するには、つまり、全国のごみ処理施設(清掃工場)整備運営事業において、積算による予定価格の策定ができるように詳細仕様を規定した「とんでもない要求水準書」を作成して用いていることが原因となり、1者応札の事態を招く大きな弊害が生じている問題を解決するには、価格と技術の両面での競争原理が働く「理想的な要求水準書」を作成して、このような要求水準書に基づく見積書の徴収と査定を適切に行って予定価格を策定することが必要不可欠です。
 
具体的には、「理想的な要求水準書」として、受注者に実現を求める「要求要件」について、受注者に委ねるべき設計には決して立ち入らず、受注者が設計・製造・施工する上で必要十分となるように記載することが肝要です。そして、選定理由明記の書面決裁で選定した複数の業者に、制定済みの要求水準書に基づく見積もりを書面で依頼して、徴収した見積書を査定することにより予定価格を策定するのです。この際、金額の査定に先立ち、見積書の見積日付、有効期限、宛先、件名、見積責任者の氏名・捺印を確認した上で、要求水準書に記載した「要求要件」について、見積書に計上漏れが無いかを確認することが肝要です。このような策定方法であれば、「予定価格は、仕様書、設計書等によって、適正に定めなければならない。」ことと完全に合致します。
 
最後になりますが、これまで国や自治体の公共事業の基本原則とされてきた「設計・施工の分離の原則」は、昭和34年1月に発出された建設事務次官通達「土木事業に係わる設計業務等を委託する場合の契約方式等について」 の中で打ち出されたものです。以来、設計と施工の分離発注方式、つまり、仕様発注方式が全国津々浦々に波及し今日に至っています。このことから、仕様発注方式は、他国に類を見ない我が国独自のガラパゴス的な発注方式ですが、日本人には、半世紀以上にわたって、グローバルスタンダードな性能発注方式の取り組み方に触れる機会も無いままに、仕様発注方式の取り組み方のみが連綿と引き継がれてきたと言えます。いわば、仕様発注方式は、日本人のDNAにしっかりと組み込まれているような存在です。このことが、全国のごみ処理施設(清掃工場)整備運営事業において、詳細仕様を規定した「とんでもない要求水準書」を殊更に用いようとする根源にあります。それゆえ、PPP/PFIによる自治体の公共事業において、VFMの尺度による費用対効果を向上させていくには、全国の自治体に蔓延している「予定価格は、確定した詳細仕様に基づく緻密な積算に依るものでなければ法令上の規定に反する」といった誤った認識を払拭して、価格と技術の両面での競争原理が働く「理想的な要求水準書」を作成して用いていくところから始めなければならないと言えます。

全国の自治体のごみ処理施設(清掃工場)整備運営事業について、平成26年から令和4年までの間に入札等の結果がネット検索により判明した30件のリスト

【吉野川市】新ごみ処理施設整備・運営事業 入札結果情報(令和4年7月27日)、DBO方式(公設民営)に基づく「総合評価一般競争入札」で、1者応札
 
【長崎市】新東工場整備運営事業 審査講評(令和4年7月1日)、DBO方式に基づく「総合評価一般競争入札」で、1者応札
 
【敦賀市】新清掃センター整備・運営事業 審査講評(令和4年6月)、DBO方式に基づく「総合評価一般競争入札」で、2つの企業グループから選定
 
【豊橋市及び田原市】ごみ処理施設整備・運営事業 審査講評(令和4年6月)、DBO方式に基づく「総合評価一般競争入札」で、2つの企業グループから選定
 
【宝塚市】新ごみ処理施設等整備・運営事業 審査講評(令和4年6月)、DBO方式に基づく「総合評価一般競争入札」で、2つの企業グループから選定
 
【県央県南広域環境組合】第2期ごみ処理施設整備・運営事業 審査講評(令和4年3月25日)、DBO方式に基づく「総合評価一般競争入札」で、1者応札
 
【福井市】(仮称)新ごみ処理施設整備・運営事業 審査講評(令和4年1月)、DBO方式に基づく「総合評価一般競争入札」で、3つの企業グループから選定
 
【志太広域事務組合】(仮称)クリーンセンター整備・運営事業 審査講評(令和3年12月24日)、DBO方式に基づく「総合評価一般競争入札」で、1者応札
 
【枚方京田辺環境施設組合】可燃ごみ広域処理施設整備・運営事業 審査講評(令和3年12月)、DBO方式に基づく「総合評価一般競争入札」で、3つの企業グループから選定
 
【山辺・県北西部広域環境衛生組合】(仮称)新ごみ処理施設整備・運営事業 民間事業者の選定客観的な評価結果(令和3年10月)、DBO方式に基づく「総合評価一般競争入札」で、1者応札
 
【霧島市】(仮称)クリーンセンター整備・運営事業 審査講評(令和3年8月)
、DBO方式に基づく「総合評価一般競争入札」で、2つの企業グループから選定
 
【北九州市】新日明工場整備運営事業 客観的評価結果の公表(令和2年10月8日)、BTO方式(民設民営)に基づく「総合評価一般競争入札」で、1者応札
 
【福山市】次期ごみ処理施設整備・運営事業 審査講評(令和2年6月)、DBO方式に基づく「総合評価一般競争入札」で、1者応札
 
【佐賀県東部環境施設組合】次期ごみ処理施設整備・運営事業 審査講評(令和2年5月15日)、DBO方式に基づく「総合評価一般競争入札」で、2つの企業グループから選定
 
【西知多医療厚生組合】ごみ処理施設整備・運営事業 審査講評(令和2年3月)、DBO方式に基づく「総合評価一般競争入札」で、2つの企業グループから選定
 
【我孫子市】新廃棄物処理施設整備運営事業 審査講評(令和2年1月14日)、DBO方式に基づく「総合評価一般競争入札」で、2つの企業グループから選定
 
【立川市】新清掃工場整備運営事業 審査講評(平成31年4月)、DBO方式に基づく「条件付き一般競争入札」で、3つの企業から選定
 
【千葉市】新清掃工場建設及び運営事業に係る落札者決定について(平成30年11月27日)、DBO方式に基づく「総合評価一般競争入札」で、3つの企業グループから選定
 
【八王子市】(仮称)新館清掃施設整備及び運営事業 審査講評(平成30年10月)、DBO方式に基づく「総合評価一般競争入札」で、1者応札
 
【守山市】環境施設整備・運営事業 審査講評(平成30年7月)、DBO方式に基づく「総合評価一般競争入札」で、4つの企業グループから選定
 
【出雲市】次期可燃ごみ処理施設建設運営事業 審査講評(平成30年6月)、DBO方式に基づく「総合評価一般競争入札」で、3つの企業グループから選定
 
【浜松市】新清掃工場及び新破砕処理センター施設整備運営事業 審査講評(平成30年1月)、BTO方式に基づく「総合評価一般競争入札」で、2つの企業グループから選定
 
【宇佐・高田・国東広域事務組合】ごみ処理施設整備・運営事業 審査講評(平成29年11月)、DBO方式に基づく「総合評価一般競争入札」で、2つの企業グループから選定
 
【糸魚川市】ごみ処理施設整備運営事業 審査講評(平成29年7月)、DBO方式に基づく「総合評価方式制限付き一般競争入札」で、1者応札
 
【見附市】新ごみ処理施設整備運営事業 事業者選定審査結果報告書(平成29年2月6日)、DBO方式に基づく「公募型プロポーザル方式」で、2つの企業グループから選定
 
【町田市】熱回収施設等(仮称)整備運営事業 審査講評(2016年10月)、DBO方式に基づく「総合評価一般競争入札」で、1者応札
 
【大磯町】(仮称)リサイクルセンター整備及び運営事業 審査講評(平成28年1月8日)、DBO方式に基づく「公募型プロポーザル方式」で、2つの企業グループから選定
 
【船橋市】南部清掃工場整備・運営事業に係る落札者の決定について(平成27年12月3日)、DBO方式に基づく「総合評価一般競争入札」で、1者応札
 
【城南衛生管理組合】折居清掃工場更新施設整備運営事業 審査講評(平成27年1月)、DBO方式に基づく「総合評価一般競争入札」で、1者応札
 
【上越市】廃棄物処理施設整備及び運営事業の事業者の選定に関する客観的な評価の結果について(平成26年3月31日)、DBO方式に基づく「総合評価一般競争入札」で、3つの企業グループから選定


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