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性能発注方式の取り組み方でのシステム開発委託が、我が国のDXを成功させる鍵です。しかし、我が国では仕様発注方式の取り組み方しかできず、裁判沙汰が頻発しています。

DXに欠かせないシステム開発委託に向けて、グローバルスタンダードである性能発注方式の取り組み方(つまり、このようなものを作ってくれといった、トップダウンによる全体最適化を求める取り組み方であり、システム開発には最適です。)が、我が国では殆どできません。他国に類を見ない我が国独自のガラパゴスである仕様発注方式の取り組み方(つまり、発注者が指示したとおりに作ってくれといった、ボトムアップによる部分最適化を求める取り組み方であり、システム開発には全く適しません。)が、官民のあらゆる分野で我が国の無意識レベルの常識と化しているからです。

このことが災いして、我が国では、大企業の基幹系システム開発委託の失敗・頓挫が頻発し、その責任を巡って裁判沙汰となった事例が続出しています。マスコミ報道された代表的な事例は、次のとおりです。

1 三菱食品は、基幹系システム開発失敗の責任はインテックにあるとして、約127億円の損害賠償を求める訴訟を提起(2018年11月)

2 古河電気工業は、基幹系システム開発失敗の責任はワークスアプリケーションズにあるとして、約50億円の損害賠償を求める訴訟を提起(2018年11月)

3 文化シヤッターは、基幹系システム開発失敗の責任は日本IBMにあるとして、約27億円の損害賠償を求める訴訟を提起(2017年11月)

4 野村ホールディングスと野村証券は、基幹系システム開発失敗の責任は日本IBMにあるとして、約36億円の損害賠償を求める訴訟を提起(2013年11月)

5 旭川医科大学は、基幹系システム開発失敗の責任はNTT東日本にあるとして、約19億円の損害賠償を求める訴訟を提起(2011年3月)

6 スルガ銀行は、基幹系システム開発失敗の責任は日本IBMにあるとして、約111億円の損害賠償を求める訴訟を提起(2008年3月)

上記の6件の大失敗事例は全て、パッケージソフトに基づいて新システムを開発しようとしたものですが、システム開発委託でこのような大トラブルを惹き起こしていたのでは、企業体質を変革・強化するDXの推進・実現など、叶うはずもありません。性能発注方式の取り組み方でシステム開発委託してDXを推進する欧米諸国では、到底考えられない異常事態です。企業体質の優劣は、延いては国力の優劣に繋がります。それゆえ、一刻も早く、性能発注方式の取り組み方を我が国の常識とする必要があります。

しかし、戦後の我が国では、見習うべき性能発注方式の成功事例が殆ど見当たりません。土木・建築工事や各種製造請負などのあらゆる分野で、戦後の我が国は今日に至るまで仕様発注方式一辺倒だったからです。しかし、我が国でも戦前には、見習うべき理想的な性能発注方式による見事な成功事例がありました。零戦です。そこで、性能発注方式で大成功を収めた零戦の開発プロセスに学んで、理想的な性能発注方式の具体的かつ効果的な取り組み方や考え方を理解し、システム開発委託に活かしていくことが肝要です。

ソフトウェア開発委託に失敗しないために、零戦開発プロセスから学ぶべき教訓

発注者側の組織として、開発すべきシステムの全体像についてのコンセンサスが無ければ、システム開発委託の成功はおぼつかなくなります。上記の6件の大失敗事例に鑑みれば、パッケージソフトに基づいて新システムを開発することの意義・目的・方法・課題について、事前に部内開発検討会議を開催するなどして、トップダウンによる全体最適化を図るべく、システム部門とユーザー部門のコンセンサスを得ていなかったことが最大の失敗原因と言えます。

そこで、零戦開発プロセスにおける旧日本海軍の部内開発検討会議が、大いに参考になるところです。

旧日本海軍は、部内の開発検討会議(航空隊等の実戦部隊メンバーや航空技術廠の技術部隊メンバーが参加)での議論を通じて、最先端の技術動向(シーズ)と現場が抱える課題(ニーズ)を踏まえ、性能要件間に生ずるトレードオフ関係(空戦性能・最高速度・航続距離についての三つ巴の相反関係)を十分に勘案(シーズとニーズのベストマッチング)することにより、実現が不可能ではない「機能と性能の要求要件」を計画要求書(1枚)にまとめ上げたのです。

零戦が成功した最大の秘訣は、この計画要求書にあります。繰り返しになりますが、発注者である旧日本海軍は、部内の開発検討会議において、最先端の技術動向(シーズ)と現場が抱える課題(ニーズ)の双方をよく研究し、性能要件間のトレードオフ関係をよく勘案し、実現が不可能ではない性能要件をよく見極めて、零戦の計画要求書を作成しました。零戦は、旧日本海軍の理想的な計画要求書があったからこそ、つまり、創意工夫すれば到達し得る目標が具体的に掲げられていたからこそ、受注メーカーである三菱重工が研究開発及び設計製造で創意工夫を凝らすことができた賜物です。

このことから、システム開発委託を成功させる鍵は、発注者側の部内開発検討会議において、ニーズとシーズをベストマッチングした開発計画書を作成して、発注者側の組織としてのコンセンサスを形成した上で、開発計画書に基づいてベンダーを選定していくことであると言えます。



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