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苦言を呈す。

私はいつだって書店の味方でありたい。
書店がどんなに馬鹿げたイベントを仕掛けようが、自己満足としか言えないようなポップを作ろうが、「それいいじゃん!」と言いたい。
なんにせよバズれば、普段書店に足を運ばない人も書店に行くかもしれない。
一度行けば、なにか暇なときに「書店に行く」という選択肢が生まれるはずだ。たぶん。

だが、どういうわけか書店はSNSを軽視しているように思える。
前にも書いたが、八重洲ブックセンターグランスタ八重洲店が新規オープンしたとき、公式Twitter(余談だが、私は『Twitter』という名称を使い続ける派だ)には「八重洲口改札外すぐ」などと書いてあった。

しかし東京駅には「八重洲口」などという改札はない。たぶん。
あるのは八重洲南口、八重洲中央南口、八重洲中央口、八重洲北口、八重洲地下中央口だ。

では公式ホームページはどうか。

八重洲ブックセンター「お知らせ」のページ

よかった。こちらはちゃんと「八重洲地下中央口」と書かれて……ちょっと待て。
なんだこの案内図は。
キュビズム?

いったん八重洲ブックセンターのホームページから離れて、グランスタ八重洲のほうから検索してみる。

グランスタ八重洲ホームページ掲載案内図

これが

これになる

なってたまるか。
マネの「草上の昼食」をピカソがリメイクしたのを彷彿とさせる。彷彿とさせないでくれ。
社内の誰も「これおかしいですよ」と指摘しないのか。案内表示に個性を出すな。
これは簡略化とも違う。もはや誤記だ。

やる気がないからこんなことになった、などとは思いたくない。
これはたぶん、そう。広報部長とか、かなり偉い人が作った案内図なのだ。

部長「俺が案内図を作ってやったぞ!」

部下1「(うわ、ひでえ。目隠しして作ったのかな)さすが部長! とてもわかりやすいです。おまえもそう思うだろ?」

部下2「(話ふるなよくそが。なんだこのゴミ地図)色分けしたのとか最高です! まさかそこに星印をつけるとは、凡人には思いつかない発想ですよ!」

部長「そうだろう。きみたちも精進したまえ」

……などというやりとりがあったのではないだろうか。
あるいは、新人に低スペックパソコンを与えて「五分以内に作れ」と無茶振りでもしたのか。
なんにせよこれはひどい。もはや案内する気がない。チンパンジーのパッチワークだ。伊能忠敬も彎窠羅針わんからしんでぶん殴るレベルだ。
もしかしたら、この地図も一生懸命作ったものなのかもしれない。だが、一生懸命作ったというのはなんの言い訳にもならない。
仮にこの図を先に見ていたとしても、私は迷子になっていただろう。

では、ほんまる神保町はどうか。

ほんまる神保町公式サイト

やはり出口については書いていない。この地図で見ると「A2」が一番近いように見える。

これは以前から不思議だったのだが、書店というのは、ほとんどがアクセス情報が不完全だ。
まさか法律に「書店ノ位置情報明示ヲ禁ズ」などというものがあるわけではあるまい。
自主的に情報を伏せているとしか考えられない。

神保町駅にはA1からA9までの出口があるという。9箇所もある。
ほんまる神保町に一番近いのはA1らしい。
では「A1」と表記すればいいか。いや、それでは足りないと思う。
A1を出て、どう進めばいいのかも記載するべきだ。
そしてさらに。
実際に駅を利用してみると、A1は長々と階段が続くことがわかる。これでは足の悪い人、あるいはお年寄りには大変だ。エレベーターがあるのはA2らしいので、そちらからのルートも記載したほうがいい。

三省堂書店ホームページ 神保町本店へのアクセス

やはり駅の出口は書いていない。
ここまでくると怖い。書店業界内でなにか申し合わせでもしているのだろうか。それをするメリットがまったく思い当たらないのだが。

比較として、他業種であるタイムズカーシェアの地図を載せておく。

タイムズカーシェア丸の内オアゾB3までの道のり

「丸の内北口」と明記されている。
スクショだとわかりづらいが、このステーションフォトギャラリーというものは横方向へスクロールすることができる。
計八枚の写真を使い、そのほとんどに矢印が入っているという丁寧さ。
最初の一枚だけで「この建物の地下三階です」と済ませても問題はないだろうに、エレベーターの場所から、エレベーターを降りたあと進む方向まで見ることができるようになっている。
「意地でも客を迷わせない」という気概が伝わってくる。

この「オアゾB3」というステーションに限らず、タイムズカーシェアのサイトには「ステーションフォトギャラリー」というものが用意されている。
駅から遠いステーションはその限りではないが、ほとんどが駅からの道のりを写真と矢印を複数使って説明している。

今年三月の発表で、純利益が50億(前年同期比62%増)の企業がここまでやっているのに、斜陽だのなんだのと言われている書店業界がゴミとしか言いようのない図をサイトに載せる。最寄駅の出口すら表記しない。Google mapのリンクを貼っておしまい。

私は書店というものを愛しているし、そのすべてを無条件に肯定したい。
だが、こんな状態を無条件に肯定するわけにはいかない。

もちろん、アクセス情報をわかりやすくしたところで劇的に業績が回復するわけもない。
計測できないような微々たる増益がある「かもしれない」くらいの話だ。

しかし、あのゴミのような案内図を見ながら地下街を迷う客の姿を想像してもなんとも思わないのだろうか。
「ちゃんと調べないおまえが悪い」とでも言うつもりだろうか。
たしかに都心の店なら、たまたま通りがかった客だけを相手に商売をしても成り立つのかもしれない。
ただ、その態度は不誠実であることは自覚してほしい。

書店業界には、SNSなどインターネット関連のマーケティングを学んでほしい。
そういう本は、書店に並んでいるはずだ。

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