【小説】「渋谷、動乱」第1話
――2021年7月31日。午前11時14分。
鏡のように磨き上げられた琥珀色の木目の床に、中町康太の襟足の髪がパラパラと落ちていく。康太の後ろでやや中腰になり、細身の鋏を自分の手先として操る藤堂凌太朗の手は、片時も休まることなく、リズムよく、自分に与えられたカットの時間の一秒一秒を、文字通り切り刻んでいた。店内に流れる、しっとりとしたクラシックの音量は控えめで、鋏が髪を切る「サクッサクッ」という音はもちろん、耳をすませば、櫛が髪を梳く音さえ聞こえそうなくらい、店内は静寂