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【シリーズ第16回:36歳でアメリカへ移住した女の話】

 このストーリーは、
 「音楽が暮らしに溶け込んだ町で暮らした~い!!」  
 と言って、36歳でシカゴへ移り住んだ女の話だ。
 前回の話はこちら↓

 運命の彼とデートだ!!
 と思って張り切って出かけたけれど、結果は、彼を怒らせて終了。

 原因は、彼の言葉が聞こえなかったにも関わらず、聞き返さず、意味がわからなかったにも関わらず、適当に返事をしたからだ。
 その上、「愛してる」などと恐ろしいことを言ったのだ。
 私が彼でも、この女には近付かない方がいいと思う。

 とはいうものの、問題は、私の英語力で、人格そのものではない。
 このまま、不気味な女で終わりたくはない。

 「この前はごめんね!」

 と伝え、せめて機嫌だけでもなおしてもらおうと思い、数日後、彼が出演しているブルースへ向かった。

 ショウの間は声をかけず、終わってから、店の近くに駐車している車の中から電話をかけた。

 ”電話も出てくれないかも・・・”と思っていたけれど、数回のコールで彼は出た。
 機嫌も悪くなかったようで、明るい声で、

 「キャン・ユー・シー・ミー(会える)?」

 と聞いてきた。

 チャーンス!!!

 と言いたいけれど、私は「シー」には、「見える」以外に、「会える」という意味があることを知らなかった。

 「俺のことがそこから見える?」

 と聞かれたと思った私は、彼が、ブルースの表へ出てきたと勘違いした。
 車の中から首を伸ばし、彼の存在を確かめたけれど、彼の姿は見えない。いないのだから当然だ。

 しかし、そんなことは私にはわからない。前回のことを教訓に、

 「ノー!アイ・キャント・シー・ユー(見えない)!」

 と、これ以上ないくらいハッキリと答えた。

 
 結果・・・ため息とともに電話を切られた。


 「シー」には、「会う」という意味もある、と気付いたところで、もう手遅れだ。

 前回は、深夜からのデートで、泊まることは明白だったにも関わらず、

 「延期したい」

 と言うし、今回は、私から電話をかけておきながら、

 「会えない!」

 と言うし、実に鬱陶しい女である。
 
 彼がため息をつく気持ちはよーーーーくわかる。

 もう一度電話をして誤解を解く、というチョイスもないわけではない。
 けれども、この時点で十分、鬱陶しく、気持ち悪い女なのだ。
 この上、潔くない女だと思われたら、最悪だ。

 残念だけれど、これ以上、私自身のキャラクターを崩壊させたくないので、スッパリあきらめることにした。

 これからは、ひとりのファンとして、彼の演奏を聞こう!!!
 
 ”運命の彼だー!!”と盛り上がっていたけれど、まともに話したこともなかったので、驚くほど、あっさりとあきらめがついた。

 翌週からは平常心でキングストン・マインズや、ブルースへ遊びに行った。

 ところが不思議なことに、いつ行っても、どこのクラブへ行っても、彼と出くわした。

 私がスッパリあきらめた、ということを知らない彼にとったら、

 「また来た!!」

 としか思えない。
 私の存在に気付くと、

 不快~~~~!!!!!

 という顔で、私のいる場所へやって来て、これ以上ないくらい不機嫌な顔で、私の隣に座った。
 彼にとったら、ただのストーカーでしかない。

 「そんなに不快なら、放っておいてくれていいんですよ・・・」

 と言いたい。
 けれども、これ以上、言葉で失敗はしたくない。
 しかも、かなり怖い。

 「ハロー・・・」
 
 と言ったきり、彼がどこかへ行くのをひたすら待った。

ドキドキ・・・怖いぞ

 おそらく彼は、優しい人なのだろう。 
 ストーカー女とはいえ、真夜中のクラブにひとりで現れる、英語の話せない、ちっこい(日本ではデカい)女を、男として放置できなかったに違いない。

 とはいえ、毎回、あんな怖い顔で隣に座られたら、音楽を楽しむこともできない。
 迷惑がられているのもイヤだ。

 仕方がない・・・しばらくの間クラブ通いをお休みし、彼の前から姿を消すことにした。

 あ~~~~~ぁぁぁ・・・・・・・・・・・・・・・・・・つらいっ!


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