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【シリーズ第35回:36歳でアメリカへ移住した女の話】

 このストーリーは、
 「音楽が暮らしに溶け込んだ町で暮らした~い!!」  
 と言って、36歳でシカゴへ移り住んだ女の話だ。
 前回の話はこちら↓

 ダウンタウンにある、ファンシーなジャパニーズレストランに、アルバイトの面接へ行った。

 「ペイストリーシェフのポジションがあるけど。日本で栄養士をしてたからできるでしょ?」

 とオーナーのアランは言った。

 お菓子や料理がまったく作れないわけではないけれど、ペイストリーシェフと栄養士は別の職業だ。

 とはいえ、せっかくのオファーだ。

 「できます!」

 と元気よく返事をして、仕事をゲットした。


 初日は、正真正銘のペイストリーシェフから指導を受けた。
 ニューヨークでケーキショップをしている、アランの弟だ。
 一日だけだったので、名前は忘れてしまった。
 
 「とりあえず、全部作るよ」

 デザートは5種類だった。 

  1. 餅アイスクリーム

  2. フライドアップルスティック

  3. ジンジャー・クレームブリュレ

  4. グリーンティー・ミルフィーユ

  5. チョコレートケーキ

 餅アイスクリームは、市販品なので作る必要はない。

 フライドアップルスティックは、春巻きの皮に、シナモンやバターで煮たりんごを巻いたもの。
 サーヴする前にキッチンでフライにする。
 パイ生地ではなく、春巻きの皮を使うところがジャパニーズ。
 アイスクリームを添えて出す。
 
 ジンジャー・クレームブリュレは、ミルクは使わず、生クリームのみを使った、濃厚クレームブリュレ。
 アジアンっぽくジンジャーフレーヴァー。
 サーヴする前に、表面に砂糖をかけて、パリパリに焼くので、実に美味しい。
 ジンジャーが入っていなければ、胸やけに襲われる一品だ。

 グリーンティ・ミルフィーユは、クレープ生地ではなく、春巻きの皮を使う。
 春巻きの皮に、砂糖、ハニー、バターの混合液を塗り、三枚重ねたものをオーヴンで焼く。
 春巻きの皮→抹茶ホイップクリーム→春巻きの皮→・・・
 この順でビルディングを作り、サーヴする。
 普通に美味しい。
 特別なものではないけれど、積み重ねるプレゼンテーションにより、特別感が出る一品。
 この店一番の人気商品だった。

 チョコレートケーキは手間がかかった。
 フランスから仕入れた高級チョコレートを使い、5層のケーキを作る。
 一層目はコーンフレイクをチョコでコーティングしたもの。
 二層目はチョコソース。
 三層目はヌテラと生クリームとなにか忘れた。
 四層目はラズベリームース。
 五層目はチョコソース。
 一層ごと、固まるのを待って、次の作業に移るので、時間がかかる。 
 時間はかかるけれど、でっかいオーヴンパン1枚分の巨大ケーキなので、一度作ると、しばらく作らなくてもいい。
 「焼く」工程がない、冷凍保存ができるデザート。

 私を雇うまでは、マネージャーのガールフレンドのピンが、週に二度ほど来てデザートを作っていた。
 したがって、デザートメニューのポイントは・・・

 保存が効くもの!!!
 
 チョコレートケーキやミルフィーユの生地は長期保存可能だ。
 クレーム・ブリュレや抹茶クリームも3、4日はOK。
 アップルスティックのアップルも冷凍保存可能だ。

 
 特訓は1日で終了した。

 「俺、明日ニューヨークに帰るから。もう来ることないし。わからんことがあったら、ピンに聞いて!」

 「・・・オッケー」


 無理やろー!!!


 と思ったけれど、このデザートの素晴らしいところは、保存が効くだけではなかった。

 分量さえ間違えなければ、誰でもほぼ同じ味に作ることができる。
 多少、チョコレートケーキの形が崩れても、ミルフィーユの皮がガタガタでも、デコレーションで誤魔化せる。

 ラズベリーソースで描いたラインの上に、金粉が散りばめられたチョコレートケーキを、「トン」とのせる。

 レイヤーに高く積み上げられたミルフィーユの皿には、ラズベリーやブルーベリーがかわいらしく飾られている。
 全体にふりかけられた粉砂糖によって、プロフェッショナル感がぐんと増す。
 
 これら、美しく盛り付けられたデザートを、美しいウェイターや、ウェイトレスがサーヴする。

 「これは、ニューヨークのペイストリーシェフのレシピで、明治の一押しなんですよ」

 「ワオ!ワンダフル!」

 
 となるらしい。

るるゆみこはケーキの絵が描けません

 経営者が日本人ではないジャパニーズレストランなんて、こんなもんだろう。
 カリフォルニアロールを寿司と呼び、わさびと醤油を山ほどつけて、にぎりを食べるお客様に必要なのは、プレゼンテーション!

 
 とはいえ、私自身が上手に作れると嬉しいので、毎回向上心を持って、キッチンに立っていた。
 クリエイティヴな仕事は楽しい。
 問題は、週に二回しか仕事がないことだった。

 「これじゃ、家賃にもならない。
 この曜日以外で仕事を見つけるしかないな・・・」

 と考えていたけれど、一か月もすると、時間の空いたときに出勤し、作り置きさえしておけばいいことがわかった。
 明治にはバーもあったので、ランチから夜中まで開いていた。
 店が開いている時間なら、いつ出勤してもOK。
 作り置きができていれば、多少曜日がずれてもOK。
 
 いいかげんだけれど、私をペイストリーシェフとして雇った時点でいいかげんだ。
 こちらとしては有難い限り。

 ということで、この仕事の他に双子のベビーシッター、そして日本人バーのホステスの仕事をゲットした。

 

 家賃と生活費が払える目途がついた🎊🎊🎊🎊🎊


最後まで読んでくださってありがとうございます!頂いたサポートは、社会に還元する形で使わせていただきたいと思いまーす!