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【詩】君のいないピアノ

 パートナーの急逝後に書いた一連の挽歌の一つです。第一作「不在」は投稿済みです。写真の中の絵はデンマークの画家ハマスホイの「ピアノを弾く妻イーダのいる室内」(部分)であり、国立西洋美術館に常設展示されています。


  君のいないピアノ

ドアを開くと奥の部屋に
君のいないピアノ
椅子だけ置かれたピアノ

昔、僕は訊いたっけ
「別れの曲」ってポピュラーだよね?
君はうつむいて、でも、
ふふと笑いながら答えた
あれは、エチュードだけれど、
すっごく難しいのよ

今、音のない部屋に
誰も弾くことのないピアノに
正午の前の秋の陽がさす
この世界の光

君が忽然と消えてしまった世界
君のいないピアノ

(註) 表題は川本三郎氏の名エッセイ「君のいない食卓」(新潮社)から思いつきました。また、永田和宏氏の名歌「たつたひとり君だけが抜けし秋の日のコスモスに射すこの世の光」に影響を受けています。両氏に感謝します。

 


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