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『咲く花に寄す』 その13

     9 承前

 考えることが一杯で、帰り道は頭の中がぐるぐるしていた。グループ発表のレポートをまとめなきゃいけないこと、美佳ちゃんが可愛かったこと、けんちゃんの写真を早く現像したいこと、そしてお地蔵さまのこと……
 家にあるのが当たり前で、とくに話を聞いたことはなかったけれど、おじいさんがいつも自分でお地蔵さまのお世話をしていることは、みやこも知っている。とっても優しい顔をしたお地蔵さま。小さい頃はそのお顔をぼんやり眺めているのが好きで、悲しいことがあるといつもごろんと寝転んで気持ちを聞いてもらってた。
 いつの間にかお家についていて、真っ直ぐ台所に向かう。そろそろお昼の時間で、お母さんがまな板でトントン音を立てて昼食の準備をしている。
「なあ、お母さん、床の間にお地蔵さん飾ってあるやん? あれってどうしはったんかなあ」
「知らん。聞いたことないわ。そう言うたら、誰かからいただいたもんやて、言うてはった気もするけど」
「おじいさんは?」
「今買い物行ってはる。もうすぐ帰らはるんちゃう? それよりみやこ、梅大福買うてきたさかい、観音さまにお供えしてきてくれへん? 会所の観音さまな」
「……観音さま?」
 全く別だと思っていたいくつかのことが、頭の中で繋がる。ぼんやりしていたイメージが、はっきり形になる。
「あ……。あっ!」
 ダッシュで廊下を駆け抜け、「ちょっとみやこ、梅大福て!」と言う母さんの声を背中に聞きながらサンダルを突っ掛け、小径を抜けて、境内の傍らに建てられている、地域の集会所に駆け込む。
「あ……あっ……」

 サンダル履きのまま砂利道の参道をダッシュして、けんちゃん家に向かう。本気で走れば五分とかからない。よく確認もせずに急ターンで道を渡ろうとして、自転車の男子高校生とぶつかりそうになる。
 挨拶もそこそこに、さっきまでおじゃましていた家に駆け込む。居間でお茶を飲んでいるおじいさんを発見して、廊下で急制動をかけて危うく転びそうになる。
「おう、どないしたんやみやこちゃん、えらい勢いで」
「あ、あんな……あんな……」
 左手で家を指さそうとして、息切れがして手を膝についてしまう。早く伝えたいのに、胸がドキドキして言葉がうまく出てこない。闖入者を察知したけんちゃんと美佳ちゃんが、階段の上から顔を出しているのが分かる。
「おうおう、そんなに急がんでええから、ちょっと落ち着こか」
 おじいさんが寄ってきて、大きな手のひらでゆっくり背中をさすってくれて、かなり息が楽になる。
「あってん……うちにあってん」
「なにがや?」
「うめかんのんさま! うちにあってん!! ずっとうちでおまつりしててん!!」


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